怪談 (1965年の映画)

『怪談』：小泉八雲の幻想世界を彩る、美しくも恐ろしい物語

1965年に公開された映画『怪談』は、小泉八雲（ラフカディオ・ハーン）の著作に収められた四つの怪談を映像化したオムニバス作品です。監督は小林正樹が務め、その独特の映像美と、武満徹による革新的な音楽が、観る者を幻想的な世界へと引き込みます。制作には10年の歳月と巨額の費用が費やされ、その芸術性の高さから、海外でも高い評価を受けました。

四つの怪談

「黒髪」

物語は、貧しい武士が、わがままな後妻に嫌気がさし、前の妻を恋しく思う場面から始まります。彼は、かつての妻のもとへ戻りますが、そこで目にしたのは、恐ろしい姿でした。美しい黒髪は、実は髑髏から生えていたのです。この物語は、人間の身勝手さと、それに対する因果応報を描いています。

「雪女」

吹雪の中、山小屋で一夜を過ごした巳之吉は、そこで恐ろしい雪女を目撃します。雪女は、同伴していた茂作を凍死させ、巳之吉には「この出来事を誰にも話してはならない」と告げます。数年後、巳之吉は美しい女性お雪と出会い結婚しますが、ある夜、彼は過去の出来事を語ってしまいます。この物語は、禁忌を破った人間の運命と、雪女の悲しい愛を描いています。

「耳無芳一の話」

盲目の琵琶法師、芳一は、平家の怨霊に憑りつかれ、夜な夜な壇ノ浦で琵琶を奏でるようになります。寺の住職は、芳一を救うため、般若心経を彼の全身に書き付けますが、耳だけは書き忘れてしまいます。平家の怨霊は、耳だけを引きちぎって持ち去ります。この物語は、怨霊の恐ろしさと、音楽の力を描いています。

「茶碗の中」

武士の関内は、茶店で飲もうとした水に、見知らぬ男の顔が映っていることに気づきます。その夜、彼はその男と出会い、斬りつけますが、男は消えてしまいます。数日後、その男の家来と名乗る者たちが現れ、復讐を予告します。この物語は、現実と幻想の境界が曖昧になる、不可思議な体験を描いています。

作品の魅力

『怪談』の魅力は、何と言ってもその映像美と音楽にあります。小林監督は、各エピソードに合わせて色彩を変え、幻想的な世界を創り出しています。また、武満徹の音楽は、琵琶の音色を効果的に使い、怪談の雰囲気を盛り上げています。特に、電気処理を施したミュジーク・コンクレートは、従来の映画音楽の概念を覆すものでした。

制作の裏側

本作は、若槻繁が学生時代から温めていた企画で、小林正樹監督によって映画化されました。制作には多大な時間と費用が費やされ、巨大なセットや特殊効果が用いられました。しかし、公開当時は興行収入が振るわず、製作会社は倒産してしまいます。しかし、その芸術性の高さは海外で高く評価され、カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞するなど、世界的な評価を得ました。

キャストとスタッフ

各エピソードには、豪華な俳優陣が出演しています。

「黒髪」：三国連太郎、新珠三千代
「雪女」：仲代達矢、岸惠子
「耳無芳一の話」：中村賀津雄、丹波哲郎
「茶碗の中」：中村翫右衛門、滝沢修

また、スタッフも一流のクリエイターたちが集結しました。

監督：小林正樹
脚本：水木洋子
音楽：武満徹

音楽へのこだわり

武満徹は、本作で琵琶の演奏以外に、通常の楽器を使用せず、テープ録音した音に電気処理を加えるという、当時としては革新的な手法を用いました。「黒髪」では、竹を折る音や、諏訪湖の氷が割れる音を加工したものが、「雪女」では、尺八やサヌカイトの音を加工したものが使われています。「耳無し芳一の話」では、薩摩琵琶の第一人者である鶴田錦史が琵琶の演奏を担当し、能楽師の謡いを加工したものが用いられています。「茶碗の中」では、三味線と人声を加工した音が使われています。

受賞と評価

『怪談』は、国内外で数々の賞を受賞しています。

カンヌ国際映画祭 審査員特別賞
ローマ国際映画祭 監督賞
アカデミー賞 外国語映画賞 ノミネート
* キネマ旬報ベスト・テン 第2位

これらの受賞歴からも、本作が映画史に残る傑作であることがわかります。

『怪談』は、日本の伝統的な怪談を、現代的な映像と音楽で表現した、他に類を見ない作品です。その美しくも恐ろしい世界観は、観る者の心に深く刻まれることでしょう。

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