恋することのもどかしさ

恋することのもどかしさ（Maybe I'm Amazed）

「恋することのもどかしさ」は、イギリスのミュージシャン、ポール・マッカートニーによって作られ、演奏された楽曲です。原題は「Maybe I'm Amazed」。1970年に発表された彼にとって初のソロ名義のアルバム『マッカートニー』に収録された作品で、情熱的なロック・バラードとして知られています。

背景と制作

この楽曲は、ポール・マッカートニーが当時妻であったリンダ・マッカートニーへの深い愛情を歌ったものです。制作されたのは1969年。マッカートニーは後に、リンダと出会って間もない頃にロンドンの自宅でピアノに向かい、自然に生まれてきた特別な曲だと語っています。

レコーディングはアルバム『マッカートニー』のセッション中、1970年2月22日にロンドンのEMIレコーディング・スタジオ（現アビイ・ロード・スタジオ）で行われました。このセッションでは、マッカートニーがボーカルに加えて、エレクトリックギター、ベース、ピアノ、オルガン、ドラムといった全ての主要な楽器を自身一人で演奏しています。妻のリンダもバッキング・ボーカルで参加しました。マッカートニーはこのレコーディングについて、「やっていても、歌っていても楽しかった」と振り返っています。

楽曲のプロモーションとして、リンダが撮影した写真を用いたミュージック・ビデオも制作されました。この映像は、1970年4月19日にアメリカの人気テレビ番組『エド・サリヴァン・ショー』で披露されています。2020年には、このミュージック・ビデオがHDリマスターされ、公式に公開されました。

発表、評価、そしてヒット

「恋することのもどかしさ」は、オリジナル版がアルバム『マッカートニー』に収録された際、シングルとしてリリースされることはありませんでした。しかし、その楽曲の質の高さは各方面で高く評価されました。特にアメリカの音楽雑誌『ローリング・ストーン』は、この曲を「とてもパワフル」と称賛し、アルバムにおける主要なテーマの一つである「悲惨な孤独な苦しみは愛によって払拭されうる」ことを表現していると評しました。同誌が発表した「オールタイム・グレイテスト・ソング500」では、2004年版で第347位にランクインしています。

発表から数年を経て、この楽曲は新たな形で注目を集めます。1976年に行われたウイングスとしての北米ツアーの模様を収めたライブ・アルバム『ウイングス・オーヴァー・アメリカ』に、カンザスシティ公演でのライブ音源が収録されたのです。このライブ音源は、翌1977年2月4日にシングルとしてカットされ、大きな成功を収めました。アメリカの総合シングルチャートであるBillboard Hot 100では最高位10位、全英シングルチャートでも最高位28位を記録し、オリジナル版を知らなかった多くのリスナーにもこの名曲が知られるきっかけとなりました。

なお、この楽曲には複数の邦題が存在します。アルバム『マッカートニー』では原題に近い「メイビー・アイム・アメイズド」と表記されることがありますが、1977年のライブ版シングルが日本でリリースされた際には、「ハートのささやき」という邦題が使用されています。

ライブでの演奏

「恋することのもどかしさ」は、マッカートニーにとって重要なレパートリーの一つであり、ウイングス時代からその後のソロ活動に至るまで、数多くのライブで演奏されてきました。前述のライブ・アルバム『ウイングス・オーヴァー・アメリカ』に収録されたバージョンは特に有名ですが、1981年に公開されたウイングスのライブ記録映画『ロックショウ』にも、ニューヨーク公演でのパフォーマンスが収録されています。

クレジット

スタジオ音源（1970年）

ポール・マッカートニー：リード・ボーカル、エレクトリックギター、ベース、ピアノ、オルガン、ドラム
リンダ・マッカートニー：バッキング・ボーカル

ライブ音源（1976年）

ポール・マッカートニー：リード・ボーカル、ピアノ
リンダ・マッカートニー：バッキング・ボーカル、オルガン
デニー・レイン：バッキング・ボーカル、ベース
ジミー・マカロック：リードギター
ジョー・イングリッシュ：ドラム

主なカバーバージョン

この楽曲は、その普遍的な魅力から多くのアーティストによってカバーされています。

フェイセズ（1971年 アルバム『ロング・プレイヤー』収録）
ジョー・コッカー（2004年 アルバム『Heart & Soul』収録）
デイヴ・グロール & ノラ・ジョーンズ（2010年 ケネディ・センター名誉賞関連イベントでの演奏）
* ビリー・ジョエル（2014年 トリビュート・アルバム『The Art of McCartney』収録）

「恋することのもどかしさ」は、ポール・マッカートニーのソロキャリアの幕開けを飾るとともに、彼が妻に捧げた個人的な感情が、時代を超えて多くのリスナーの心を捉え続ける名曲であり続けています。

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