恐怖のレストラン

聖飢魔II『恐怖のレストラン』：悪魔的原点回帰とバンド内葛藤の記録

1992年10月21日、聖飢魔IIの7作目となるオリジナルアルバム『恐怖のレストラン』がリリースされた。通称「殺人教典」と呼ばれる本作は、前作ライブアルバムから約7ヶ月ぶり、ソニー移籍第一弾という重要な作品であり、バンドの転換期を象徴する一枚と言えるだろう。

悪魔的原点回帰とコンセプト

『恐怖のレストラン』は、海外公演を経てバンドが再認識した「初期の悪魔的な世界観」への回帰を目指した作品だ。全12曲中10曲で死が描かれるという、過激な歌詞が特徴的なコンセプトアルバムとなっている。これは、バンドメンバー間の意見の衝突や、長らく大教典を発表していなかったことへの反動、そしてマネージメント側との認識のズレから生まれた、ある種の爆発的な表現と言えるだろう。

アルバムのアートワークは、スクリーミング・マッド・ジョージが担当。楽曲はデーモン小暮、SGT. ルーク篁III世、エース清水、ライデン湯沢が作曲、小暮と篁が作詞を担当し、サウンドプロデュースは中村哲が務めた。特に小暮による楽曲が多く収録されていることも、本作の特徴の一つである。先行シングルとして、日本電装のCMソング「満月の夜」がリリースされているが、映画『陽炎』主題歌「赤い玉の伝説」や動画教典『HUMANE SOCIETY 〜人類愛に満ちた社会〜』主題歌「正義のために」は収録されていない。

制作過程における葛藤とバンド内外の軋轢

本作の制作過程は、決して平坦ではなかった。メンバーと当時のディレクター・丸沢和宏氏との間には、大きな認識のズレがあった。丸沢氏は、より商業的な成功を目指し、バンドのイメージをコントロールしようとしていた一方、メンバーは、初期の悪魔的イメージを追求し、よりアーティスティックな作品を作りたいと考えていた。

特に曲順をめぐっては、小暮と丸沢氏の間で激しい衝突が発生。一晩に及ぶ会議が行われたというエピソードは、当時バンド内部に漂っていた緊張感、そして鬱積した不満を表している。爆裂聖飢魔IIという期間限定プロジェクトへのメンバーの不本意な思いや、丸沢氏の冗談めいた歌詞に対するメンバーの反発などが、この葛藤をさらに深めていたと考えられる。最終的に、丸沢氏は本作を最後に聖飢魔IIのディレクターを降板することになる。

また、メンバーそれぞれがソロ活動や外部プロジェクト（例えば、ライデン湯沢のRXなど）に携わっていたことも、バンド内部の複雑な状況に影響を与えていた。これらの経験が、本作の音楽性や歌詞に反映されている部分もあるだろう。

音楽性と評価

『恐怖のレストラン』は、ヘヴィメタルを基調としながらも、ホラー映画のようなダークで陰鬱な雰囲気と、時にユーモラスな要素が入り混じった作品となっている。メンバーは、初期の聖飢魔IIのイメージを再現しつつ、より過激で、より原点に回帰した作品を目指していたが、その結果、一部メンバーからは「やり過ぎた」「お化け屋敷みたい」といった声も聞かれる。

しかし、その過激な世界観と完成度の高い楽曲は、多くのファンを魅了した。CDジャーナルやTOWER RECORDS ONLINEなど、複数の音楽情報サイトで肯定的な評価を得ている。オリコンチャートでは最高位8位を記録し、7.2万枚を売り上げた。商業的な成功という点では、必ずしも大きな成果を得られなかったものの、小暮のCM出演やメディア露出などが好調だったこと、さらにメンバーの音楽以外の活動が活発だったことから、事務所側は聖飢魔II全体のCM出演を推進し始めた。

まとめ

『恐怖のレストラン』は、聖飢魔IIの転換期を象徴する、複雑で多層的な作品である。悪魔的イメージへの回帰、メンバー間の葛藤、マネージメントとの確執、そして商業的な成功と限界――これらの要素が複雑に絡み合い、唯一無二のアルバムを作り上げている。その過激さと完成度の高さは、聖飢魔IIの歴史の中でも特筆すべきものと言えるだろう。

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