恩栄録

『恩栄録』（おんえいろく）は、江戸時代後期の文化年間に、旗本である小田彰信によって編纂された歴史書です。全3巻から構成されており、関ヶ原の戦い以降の各大名の加増、転封、新規知行、分知といった動向を年次ごとに詳細に記録している点が特徴です。

同一著者の手による『廃絶録』と対をなす存在であり、『恩栄録』が各大名の隆盛を記録しているのに対し、『廃絶録』は改易や減封などによって取り潰された大名の記録をまとめたものです。この二つの史料を合わせて参照することで、江戸時代における大名の盛衰をより深く理解することができます。

現存する『恩栄録』の諸本を調査した結果、原本は確認されていません。内容構成としては、第1巻は徳川家康が没した元和2年（1616年）まで、第2巻は徳川家光が没した慶安4年（1651年）までの記述となっています。しかし、第3巻に関しては、所蔵されている写本によって記述範囲に差異が見られます。例えば、内閣文庫所蔵本は文化14年（1817年）までの記述がありますが、文政12年（1829年）や慶応2年（1866年）まで記述されている写本も存在します。

このような記述範囲の違いが生じている理由として、小田彰信による編纂後、後世の人物によって追記が行われた可能性が指摘されています。また、石高、居城、大名、年月日といった情報に誤りが散見される点も注意が必要です。

戦後、歴史学者の藤野保によって『廃絶録』とともに校訂作業が行われ、文献史料としての研究が進められました。『恩栄録』は、江戸時代の大名配置や勢力変遷を研究する上で欠かせない基本史料の一つとして、現在も高く評価されています。

参考文献
小宮木代良「恩栄録」『日本史大事典 1』（平凡社 1992年）ISBN 978-4-582-13101-7
福田千鶴「恩栄録」『日本歴史大事典 1』（小学館 2000年）ISBN 978-4-095-23001-6

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