悲しきサルタン (アルバム)

悲しきサルタン

『悲しきサルタン』（原題：Dire Straits）は、イギリスを代表するロックバンド、ダイアー・ストレイツが1978年に世に送り出した、彼らにとって最初のスタジオアルバムであり、記念すべきデビュー作です。

アルバム制作の背景

このアルバムの誕生には、いくつかの重要なステップがありました。制作に先立ち、バンドは1977年の夏に初期のデモ音源を録音しています。同年7月27日に録音された5曲入りのデモテープには、「水辺へ」「ウォーター・オブ・ラヴ」「悲しきサルタン」「ワイルド・ウェスト・エンド」といった楽曲が含まれており、これらは後に本アルバムに改めて収録されることとなります。

さらに同年秋には、BBCラジオ・ロンドンの番組向けに「サウスバウンド・アゲイン」「イン・ザ・ギャラリー」「シックス・ブレイド・ナイフ」が録音され、11月9日にはアルバムに再録される「セッティング・ミー・アップ」を含むデモテープが制作されました。

バンドの運命を決定づけたのは、BBCラジオ・ロンドンのDJ、チャーリー・ジレットでした。彼がこれらのデモ音源を番組でオンエアしたところ、それを耳にしたフォノグラム・レコードのA&R、ジョン・スタインズがバンドに注目。これがきっかけとなり、バンドはフォノグラム傘下のヴァーティゴ・レコードとの契約を獲得するに至ります。

レコーディングは、当時人気を集めていたトーキング・ヘッズのツアーでオープニングアクトを務め終えた後に行われました。驚くべきことに、アルバム全体の録音期間はわずか12日間という短さだったと言われています。

反響と評価

本作はリリースされるやいなや、世界各国で大きな反響を呼びました。地元イギリスでは、全英アルバムチャートで最高5位まで上昇し、132週間にわたりチャート圏内に留まるという驚異的なロングヒットを記録します。アルバムからのシングルカットである「悲しきサルタン」も、1979年3月には全英シングルチャートで最高8位を記録するヒットとなりました。

特に早期に注目を集めたのはオランダでした。VPROのDJが「悲しきサルタン」を熱心にオンエアしたことや、現地の評論家からの絶賛も相まって、人気が急速に拡大。1978年8月5日付のアルバムチャートに初登場46位でランクインした後、9月2日からは14週連続でトップ10入りを果たし、うち5週間は3位を維持するという大成功を収めました。シングル「悲しきサルタン」も、8月12日に初登場43位となり、その後最高11位まで上昇しています。

ニュージーランドでも1978年末から1979年にかけて人気が爆発しました。アルバムは1978年12月3日付のアルバムチャートにいきなり2位で初登場し、その後20週連続でトップ10に留まりました。シングル「悲しきサルタン」も1978年12月10日付で39位に初登場し、1979年1月28日付で最高12位を記録しています。

アメリカ盤は1978年秋にワーナー・ブラザース・レコードからリリースされました。こちらでも成功は続き、1979年にはアルバムがBillboard 200で最高2位、シングル「悲しきサルタン」がBillboard Hot 100で最高4位を記録しました。アルバムは1979年2月にはRIAAによってゴールドディスクに認定され、1987年1月にはダブル・プラチナに輝いています。

音楽評論家からの評価も高く、Stephen Thomas Erlewineは、音楽評価サイト「オールミュージック」にて5点満点中4点を与えています。彼の評によれば、アルバムの核にはバーで演奏するようなパブロック的な精神性が息づいており、特に代表曲「悲しきサルタン」は、日の目を見ないパブロックバンドの嘆きを表現しているといいます。しかし、その音楽性は単なるシンプルなブギーやシャッフルに留まらず、時折ジャズやカントリーの要素も取り入れている点が特徴として挙げられています。

収録曲

全ての楽曲はギタリストであるマーク・ノップラーによって書かれています。

水辺へ (Down to the Waterline) – 4:03
ウォーター・オブ・ラヴ (Water of Love) – 5:26
セッティング・ミー・アップ (Setting Me Up) – 3:19
シックス・ブレイド・ナイフ (Six Blade Knife) – 4:13
サウスバウンド・アゲイン (Southbound Again) – 2:59
悲しきサルタン (Sultans of Swing) – 5:48
イン・ザ・ギャラリー (In the Gallery) – 6:16
ワイルド・ウェスト・エンド (Wild West End) – 4:41
ライオン (Lions) – 5:04

参加ミュージシャン

マーク・ノップラー – ボーカル、ギター
デヴィッド・ノップラー – リズムギター、バックグラウンド・ボーカル
ジョン・イルズリー – ベース、バックグラウンド・ボーカル
* ピック・ウィザース – ドラムス

もう一度検索