情報調査局

情報調査局（IRD）とは

情報調査局（Information Research Department、略称IRD）は、1947年から1977年まで存在したイギリスのプロパガンダ機関です。冷戦期において、ソ連の影響力に対抗するため、イギリス外務省内に設立されました。初代局長はラルフ・マリーが務めました。

設立の背景

第二次世界大戦後、ソ連は国際文化交流において圧倒的な優位に立っていました。ソ連は、青年国際組織などを通じて世界中でプロパガンダ活動を展開していました。これに対し、イギリス外務省の文化関係局（CRD）は、MI5やMI6と協力して対抗措置を講じていました。

そのような状況下で、イギリス外務大臣アーネスト・ベヴィンが国連でソ連の外相モロトフからプロパガンダ文書を使い罵倒される事件が発生しました。この事件を重く見たイギリスは、外務省内に本格的なプロパガンダ組織として情報調査局（IRD）を設立することを決定しました。情報調査局はMI6とも連携し、外務省内で最大の組織へと成長しました。

活動内容

情報調査局の主な目的は、ソ連のプロパガンダに対抗することでした。そのため、共産主義体制の貧困や抑圧に関する情報を広範囲に発信しました。IRDが作成した資料は、イギリスの閣僚や議員、労働組合員、労働党国際部、国連派遣の外交官、さらにはBBCなどのメディア、ジャーナリスト、作家など、多岐にわたる関係者に配布されました。

IRDのプロパガンダ手法は、「ブラック・プロパガンダ」と呼ばれる虚偽や捏造に基づくものではなく、事実に基づいた「グレイ・プロパガンダ」を採用していました。これにより、情報操作に対する信頼性を高めることを目指しました。

1950年代には最も活動が活発でしたが、労働党を利用した政治工作や協力者への過剰な資金提供が問題となり、1977年に閉鎖されました。

組織

情報調査局の組織は、国ごとの「カントリーデスク」で構成されていましたが、最大の特徴は「イギリスデスク」が存在したことです。これは、イギリス国内の世論を重要なターゲットとしていたことを示しています。また、第三世界も主要な標的とされていました。

活動の性質上、組織は秘密裏に運営され、要員は身分を隠すことが求められました。しかし、ケンブリッジ・ファイヴの一員であるガイ・バージェスによって、情報調査局の存在はソ連に筒抜けであったことが判明しています。

情報調査局はCIAなどの諜報機関とも協力し、世界各地で様々な工作活動を行いました。大使館にはIRDの要員が配置され、地元のジャーナリストやオピニオンリーダーに情報を提供したり、東側からの亡命者を受け入れたりする役割を担っていました。

プロパガンダ活動

情報調査局は、大使館の要員を通じて情報工作を行うだけでなく、協力的な知識人の著作を広めることでプロパガンダ活動を展開しました。特に、ジョージ・オーウェルの『1984』や『動物農場』は、その価値が認められ、情報調査局はこれらの著作権を買い取り、海外の出版社に無償で出版権を与えることで、大量に普及させました。

また、ジョージ・オーウェルは、協力すべきでない人物のリストを作成し、情報調査局の友人に渡していました。このリストは「オーウェル・リスト」と呼ばれ、チャーリー・チャップリンやJ・B・プリーストリーなどの名前が含まれていました。

情報調査局は、BBCワールドサービスにも情報を提供し、東側の様々な活動を国内外の労働組合や政党に暴露しました。その際、労働党の国際部をうまく利用しました。彼らは国内外の労働団体との接触が可能だったため、情報収集やプロパガンダ活動に貢献しました。また、情報調査局は、国内外から集めた共産主義者の情報を労働党に提供し、労働党内の粛清にも関与したとされています。

歴代局長

ラルフ・マリー

脚注

参考文献

奥田 泰広「外務省情報調査局の設立と1948年におけるイギリスの対中政策」『愛知県立大学大学院国際文化研究科論集』第16巻、愛知県立大学、2015年3月、137-162頁。
「ワールド・インテリジェンス」 2007年3月号

関連項目

プロパガンダ
ジョージ・オーウェル
アーサー・ケストラー
* 情報調整局 - アメリカの諜報、プロパガンダ機関。後のCIA。

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