惑星協会

惑星協会（The Planetary Society）

概要と設立

惑星協会は、天文学、惑星科学、そして宇宙探査の分野における研究支援、広報活動、および政策提言を国際的に展開する非営利団体（NPO）です。1980年、著名な天文学者であるカール・セーガン博士、惑星科学者のブルース・マレイ氏、そしてルイ・フリードマン氏によって、アメリカ合衆国カリフォルニア州のパサデナ（NASAのジェット推進研究所が位置する都市）に設立されました。

協会の掲げる使命は、「Empowering the world’s citizens to advance space science and exploration」、すなわち「世界の市民が宇宙の科学と探査を前進させることを後押しする」ことです。この目標を達成するため、協会は火星をはじめとする太陽系内の惑星探査、地球に接近する可能性のある小惑星（地球近傍天体）の発見、そして地球外生命体の探査（SETI）といった分野を特に重視して活動しています。一方で、宇宙空間が商業的または軍事的な目的で利用されることに対しては、批判的な立場を取っています。

組織と会員構成

惑星協会は、その活動範囲を世界中に広げており、2006年の時点では、およそ140カ国に10万人を超える会員を擁する大規模な組織へと成長しました。会員の構成は極めて多様で、アメリカ航空宇宙局（NASA）に所属する研究者や著名な天文学者といった専門家から、宇宙に関心を寄せる一般市民まで、幅広い層の人々が参加しています。また、運営には賛助会員として協力する法人なども名を連ねており、世界有数の宇宙研究支援団体としての役割を果たしています。

組織は各国に支部を設けていますが、それぞれの支部は独自の運営体制を持っています。かつて存在した日本惑星協会は、アメリカ本部の惑星協会と密接な連携関係にあり、日本惑星協会の会員はそのままアメリカ本部の会員としても登録され、様々な活動に参加することが可能でした。NASAとの強いつながりを持ち、その関係者や講師による公開講座が頻繁に開催されています。さらに、日本の宇宙航空研究開発機構（JAXA）の職員も協会の活動に参加または賛同しており、良好な協力関係が築かれています。

主な活動内容

惑星協会は、広範な活動を通じて宇宙科学と探査の振興を図っています。

研究支援とプロジェクト

SETI@homeのような分散コンピューティングを利用した地球外生命探査プロジェクトは、もともと惑星協会の支援を受けて始まりました（現在は全米科学財団の支援を受けています）。また、マイクロソフト社の共同創業者であるポール・アレン氏の資金提供を受けたSETIプログラムの運営にも携わるなど、具体的な研究プロジェクトへの支援も行っています。

広報と情報提供

隔月で発行される会報「プラネタリーレポート（The Planetary Report）」を通じて、最新の宇宙探査に関する情報や、宇宙関連の書籍紹介、協会の活動報告などを会員に提供しています。これらの出版活動に加え、協会のウェブサイトではWEBラジオ形式で宇宙探査やSETIに関する解説番組を配信するなど、多様なメディアを活用した広報活動を展開しています。また、運営資金の一部を賄うために、宇宙関連グッズの販売も行っています。

ソーラーセイル実験機の開発

惑星協会は、次世代の宇宙推進技術として注目されるソーラーセイル（太陽帆）の実用化に向けた実験機の開発にも積極的に取り組んでいます。初期の試みである「コスモス1号」は、NASAの支援も受けたプロジェクトでしたが、2001年と2005年の打ち上げは、いずれもロケットの不具合により軌道投入に失敗しました。しかし、その後の粘り強い開発を経て、2015年には「ライトセイル1号」をアトラスVロケットで打ち上げ、宇宙空間での帆の展開に成功しました。さらに2019年には、より高度な実証機である「ライトセイル2号」の打ち上げに成功し、太陽光圧による軌道制御の試験を軌道上で実施し、成果を収めました。

ソーラーセイルは、ロケット燃料を必要とせず太陽光の圧力（光圧）を帆で受けて推力とするため、長期間のミッションや遠方への探査において省エネルギーであるという大きな利点があります。現在の推力は一般的なロケットエンジンには及びませんが、設計や運用次第では電気推進（イオンエンジンなど）と同等の性能を発揮する可能性を秘めています。この技術は、将来的に月、火星、金星、水星、さらには小惑星など、太陽系内の様々な天体へ小型の観測機器を搭載した探査機を送る手段として期待されています。

日本惑星協会の活動と変遷

日本では、1999年に日本惑星協会が設立され、太陽系を中心とした宇宙開発に関する啓蒙活動を精力的に行っていました。特に、日本の小惑星探査機「はやぶさ」のミッションにおいては、探査機のターゲットマーカーにメッセージを搭載する「星の王子さまに会いに行きませんか」キャンペーンを実施し、約88万人という多数の応募者を集めるなど、大きな反響を呼びました。しかし、関係者の高齢化などが進んだことから、2011年7月に最後のメールマガジンを配信して解散することとなりました。解散時の会員数は約350名でしたが、メールマガジンは約1万人の読者に購読されていました。解散時の会長はJAXA名誉教授で『ニュートン』編集長を務めた水谷仁氏、副会長は小林陽太郎氏でした。賛助会員として、富士ゼロックス（現：富士フイルムビジネスイノベーション）、博報堂、三菱電機（現：パナソニック）、小川モータ株式会社などが名を連ねていました。その後、活動は停止していましたが、2015年7月には約4年ぶりに活動を再開することが発表されています。

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