想いは果てなく〜母なるイングランド

ジョージ・ハリスン『想いは果てなく〜母なるイングランド』：創造の軌跡とジョン・レノンへの追悼

『想いは果てなく〜母なるイングランド』（原題: Somewhere In England）は、1981年6月1日に発表されたジョージ・ハリスンのアルバムです。この作品は、ハリスンの音楽活動における重要なターニングポイントを示すとともに、彼の内面世界と社会への関心を反映した内容となっています。

制作の背景：家族、モータースポーツ、映画

1979年3月、アルバム『慈愛の輝き』のプロモーション後、ハリスンは音楽活動から一時的に距離を置きました。その背景には、息子の誕生、モータースポーツ関係者への支援、そして映画業界への進出という３つの大きな出来事がありました。

息子ダーニの誕生は、ハリスンにとって大きな喜びであり、家族と過ごす時間を大切にするようになりました。また、F1ドライバーのジャッキー・スチュワートやオートバイ・レーサーのスティーブ・パリッシュらとの親交を通じて、モータースポーツへの支援も積極的に行いました。さらに、モンティ・パイソンの映画『ライフ・オブ・ブライアン』の制作を支援するために、ハンドメイド・フィルムスを設立し、映画業界にも足を踏み入れました。

これらの活動を通じて、ハリスンは多忙な日々を送りながらも、新たな創造の源泉を育んでいったのです。

レコーディング：二度の試練とジョン・レノンへの追悼

1980年3月から、ハリスンは自宅スタジオでレコーディングを開始しましたが、完成したアルバムは、レコード会社の意向により収録曲の一部差し替えとジャケットの変更を余儀なくされました。しかし、ハリスンはリンゴ・スターへの楽曲提供や、新たなメンバーとの追加レコーディングを通じて、アルバムを再構築していきました。

そんな中、1980年12月8日にジョン・レノンがニューヨークで射殺されるという悲劇が起こります。ハリスンは大きなショックを受けましたが、音楽で心を癒そうとレコーディングを続行し、「過ぎ去りし日々」をレノンへの追悼歌として書き換え、ポール・マッカートニー夫妻らにバッキング・ボーカルを依頼しました。そして、ジョージ・マーティンらの協力を得て、アルバムを完成させたのです。

リリースと評価：成功と挫折、そして再評価

1981年5月、「過ぎ去りし日々」を先行シングルとしてリリースすると、アメリカで大ヒットを記録しました。しかし、アルバム自体の売り上げは期待ほど伸びず、ハリスンのソロ・キャリアで初めてゴールドディスク認定を逃す結果となりました。

その後、アルバムはCD化され、2004年にはリマスター盤がリリースされました。その際、ジャケットのデザインが当初のものに戻され、ボーナス・トラックが追加収録されました。また、お蔵入りになっていた楽曲も、後に発表されています。

アートワーク：テート・ギャラリーとクリシュナの言葉

アルバムのアートワークは、テート・ギャラリーで撮影された写真が使用されています。インナー・スリーブには、レノンへの献辞として、ヒンドゥー教の聖典『バガヴァッド・ギーター』からクリシュナの言葉が引用されています。

収録曲と参加ミュージシャン：多彩な才能の結集

アルバムには、「神のらくがき」や「世界を救え」など、ハリスンの多様な音楽性が反映された楽曲が収録されています。また、リンゴ・スター、ポール・マッカートニー、アル・クーパー、レイ・クーパーなど、豪華なミュージシャンが参加しています。

『想いは果てなく〜母なるイングランド』は、ジョージ・ハリスンの音楽キャリアにおける重要な作品であり、彼の内面世界と社会への関心を深く理解するための貴重な手がかりとなるでしょう。

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