意見封事

意見封事（いけんふうじ）について

意見封事とは、律令制の下で、官僚が天皇の詔に応じて、自らの考えを密封して提出する形式の意見書です。これは時局の政治に対する意見を上奏するものであり、養老令公式令65条の「陳意見」にその規定があります。

意見封事の概要と歴史的背景

意見封事は、政治の状況についての意見を、天皇からの勅命に基づいて提出された文書で、提出者の名前や官位を隠して審議されます。これにより、政治における公卿間での公平な意見交換が促され、意見が採用される際には理由を添えて天皇に上奏されます。古くは奈良時代の孝謙天皇（748年 - 758年）の時代に、5位以上の官僚や師位以上の僧侶に対して意見封事が出されたことが記録されています。

例えば、759年に淳仁天皇から発表された意見提出の勅に従い、石川年足や文屋智努らによる多くの意見封事が上奏され、すべてが承認・実施されました。また、『類聚三代格』には、京城近辺に果樹を植えて街路樹にする意見が採択された事例もあります。

平安時代の意見封事

平安時代に入ると、意見封事はいっそう活用されるようになりました。特に有名なのが、三善清行が提出した「意見封事十二箇条」です。この文書は、彼が備中国の国司としての経験を踏まえ、国家財政の困難さやその原因、取るべき対策を率直に論じたものです。この時期、地方政治の混乱や偽籍などが横行し、農民の逃亡や浮浪が常態化する中、国家の財源は逼迫していました。

三善清行は、国の再生に向けて、人口調査の徹底、班田の適切な施行、未利用の土地の公地化、そして得られる賃借料による財政の補填を提案しました。このように、彼の意見封事はただの意見書にとどまらず、当時の政治行政の厳しい状況を示す重要な資料とされています。

続いて、958年には村上天皇のもとで右少弁菅原文時が「意見封事三箇条」を提出しました。これは天皇が意見封事を求めたことへの対応で、内容は贅沢の禁止、売官の禁止、鴻臚館の復活という三つの提案から成り立っていました。

意見封事の変遷とその影響

意見封事は、律令制において頻繁に行われましたが、10世紀の終わりごろから徐々にその形は失われ始め、次第にその意義も薄れていきました。具体的な事例や提案も後の政治に影響を及ぼすことはありましたが、形式的なものに成り下がってしまったのは否めない事実です。

全体として意見封事は、古代日本における官僚制度の一端を形成し、政治的な意見表明の手段として機能し続けました。しかし、その限界も明らかになり、次第に変革を求める声が高まっていく中で、意見封事の役割は変化していくこととなりました。

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