石川年足

石川年足：清廉な官僚、その生涯

石川年足（いしかわ の としたり）は、飛鳥時代末期から奈良時代中期にかけて活躍した公卿であり、歌人としても知られています。彼は、壬申の乱以降に蘇我氏の嫡流となった少納言・蘇我安麻呂の孫、権参議・石川石足の長男として生まれました。その官位は正三位・御史大夫にまで至り、勲十二等の勲等も持っていました。

地方官としての実績と昇進

年足は、少判事を経て、数々の地方官を歴任しました。勲十二等の勲等を持つことから、東北地方の地方官を務めていた可能性も指摘されています。昇進は比較的遅く、48歳にしてようやく従五位下に叙爵されました。その後、出雲守に任じられると、その善政によって人民は安寧に暮らし、その功績を聖武天皇に讃えられました。この時、絁30疋、布60端、正税3万束が与えられたとされています。

その後、左中弁や春宮員外亮、そして春宮大夫として春宮・阿倍内親王に仕えながら、年足は順調に昇進を重ねました。聖武朝の後半には、従五位上、正五位下、正五位上、従四位下と位階を上げ、天平20年（748年）には参議に任ぜられ、公卿の仲間入りを果たしました。

藤原仲麻呂との関係と権勢

天平9年（737年）に藤原四兄弟が天然痘で亡くなると、藤原氏の権勢は一時的に後退しました。その中で、年足の父・石川石足と親しかった藤原武智麻呂の次男、藤原仲麻呂が台頭します。仲麻呂の又従兄弟にあたる年足も、その権勢に与ることとなりました。天平勝宝元年（749年）に阿倍内親王が即位（孝謙天皇）すると、年足は従四位上に叙せられ、紫微中台の次官（紫微大弼）に任ぜられました。彼は仲麻呂の補佐として活躍したのです。

孝謙天皇、淳仁天皇の時代においても、年足は順調に昇進を続け、従三位、中納言、正三位と位階を上げました。また、この間には『養老律令』の施行や、その施行細則である『別式』の編纂、官号の唐風変更などにも貢献しました。特に『別式』は淳仁天皇への意見封事によって採用されたものの、施行されないまま散逸しましたが、当時実務の参考として非常に活用され、『弘仁式』の元になったとされています。

天平宝字4年（760年）には、73歳という高齢ながら御史大夫にまで昇りつめました。これは、祖父・安麻呂以降の蘇我氏（石川氏）の氏人としては最も高い官職でした。

最期と人物像

しかし、光明皇后の崩御や、孝謙上皇の病を治した道鏡の台頭など、仲麻呂の権勢に陰りが見え始めた天平宝字6年（762年）9月30日に、年足は75歳で亡くなりました。最終官位は御史大夫正三位兼文部卿神祇伯でした。薨去の際には、淳仁天皇から佐伯今毛人や大伴家持が弔いのために遣わされました。

年足は、生まれつき清廉で勤勉な性格であり、政治にも非常に習熟していました。公務の合間の読書を唯一の楽しみとしていたと伝えられています。また、『万葉集』には彼の和歌作品が1首残されています。

墓誌の発見

年足の死後1000年以上経った1820年（文政3年）に、摂津国島上郡白髪郷（現在の大阪府高槻市真上町）の酒垂山（荒神山）から墓誌が発見されました。この墓誌は、1952年（昭和27年）に「金銅石川年足墓誌」として国宝に指定されています。

官歴

以下に、年足の官歴を記します。

時期不詳：正六位上、少判事、勲十二等
天平7年（735年）4月23日：従五位下
天平10年（738年）6月29日：出雲守
天平11年（739年）6月23日：善政により褒賞
天平12年（740年）1月13日：従五位上
天平15年（743年）5月5日：正五位下
天平16年（744年）9月15日：東海道巡察使
天平18年（746年）4月4日：陸奥守、4月22日：正五位上、9月20日：春宮員外亮、11月5日：左中弁
天平19年（747年）1月20日：従四位下、3月11日：春宮大夫、11月7日：国分寺建立の検地監督
天平20年（748年）3月22日：参議
天平勝宝元年（749年）7月2日：従四位上、8月10日：兼紫微大弼
天平勝宝2年（750年）3月3日：治部卿
天平勝宝3年（751年）4月4日：左大弁
天平勝宝5年（753年）9月28日：従三位、大宰帥
天平勝宝9歳（757年）6月16日：神祇伯、兵部卿、8月4日：中納言
天平宝字2年（758年）8月1日：正三位、8月25日：兼式部卿
天平宝字4年（760年）1月4日：御史大夫
天平宝字5年（761年）10月11日：遷都の功により褒賞
天平宝字6年（762年）9月30日：薨去

系譜

父：石川石足
母：不詳
妻：田口池守の娘
* 子女：石川名足、石川永年


このように、石川年足は、奈良時代中期において、清廉な人柄と優れた政治手腕で、人々に慕われた人物でした。

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