意識に相関した脳活動

意識に相関した脳活動（NCC）とは

意識に相関した脳活動（Neural Correlates of Consciousness：NCC）とは、特定の意識的な知覚体験を生じさせるのに必要かつ十分な最小限の神経メカニズムのことです。これは、意識の神経基盤を研究するための重要な概念であり、脳のどの部分が意識的な体験に関与しているのかを特定するのに役立ちます。

NCCの定義で重要なのは「最小限」という点です。脳全体の活動は明らかに意識を引き起こすのに十分ですが、問題は、そのうちのどの下位構成要素が意識的な体験に必要であるかということです。例えば、小脳の神経活動は意識的知覚を引き起こさないと考えられているため、NCCの一部とはみなされません。

また、NCCの定義は必要条件に強く固執するものではありません。神経ネットワークには冗長性と並行性が見られるため、ある神経集団が知覚を引き起こす際に、その神経集団を不活化しても別の神経集団が似たような知覚を引き起こす可能性があります。

意識の神経生物学的アプローチ

意識は、複雑な生物学的システムが持つ難解な特性です。意識の科学は、精神的な状態と脳の生理的な状態との関係を解明しようとしています。この関係の本質は、古典的な心脳問題の核心です。神経科学者は、多くの実験的アプローチによって意識の神経基盤を研究してきました。

心脳問題の解決には、哲学的議論を避け、実験的に扱える問題に集中する必要があります。その鍵となるのが、NCCの探求です。NCCを特定し、その特徴を理解することは、意識の理論を進展させるために不可欠です。

意識のレベルと状態

「意識」という言葉は、覚醒（Arousal）や意識の状態（States of Consciousness）と、意識の内容（content of consciousness）や意識状態（Conscious States）という、2つの異なる意味で使われます。

意識的であるためには、脳は比較的高いレベルの覚醒状態にある必要があります。覚醒レベルは、概日リズムや睡眠不足、薬物、運動などの影響を受けます。高い覚醒状態は、通常、知覚や思考、記憶などの特定の内容を持つ意識状態に関連付けられます。

覚醒レベルと意識状態は概念的に異なります。覚醒は行動に基づいて計測可能ですが、意識状態は経験の内容に関わるものです。異なる覚醒レベルは、異なる種類の意識的経験と関連付けられます。例えば、夢を見ている状態と深い睡眠状態では、脳の基本的な生理状態が異なり、可能な意識的経験の範囲も異なります。

意識の大域的な障害

臨床では、意識の障害された状態を昏睡、遷延性意識障害（PVS）、最小意識状態（MCS）と分類します。昏睡は意識が全くない状態、PVSは覚醒はあるものの意識がない状態、MCSは意識的感覚が変動し限定された状態を指します。脳死状態では、覚醒も意識もありません。

意識に必要な最小限の神経活動の基準がないため、PVSとMCSの患者を区別することは困難です。脳機能イメージングは、このような場合に役立ちます。重篤な脳損傷で植物状態になった患者が、テニスをしたり家の中を歩くことを想像した際に、健常者と同じような脳活動を示すことが示されています。

意識に作用する局所的な脳損傷

脳の広範囲な損傷とは対照的に、脳幹上部の網様体賦活系（RAS）や視床の髄板内核（ILN）など、特定の脳構造の損傷でも意識の完全な消失が起こります。これらの脳構造は、脳の覚醒レベルを調節し、意識の形成に不可欠です。RASの神経核は、アセチルコリン、ノルアドレナリン、セロトニンなどの神経伝達物質を放出し、脳の活動性を調節します。ILNの損傷も意識の消失を引き起こします。

意識的知覚の神経基盤

視覚は、NCCを研究する上で絶好の対象です。心理学者は、マスキング、両眼視野闘争、フラッシュサプレッションなどの手法を用いて、物理的な刺激とそれに関連する知覚との関係を調べています。

両眼視野闘争では、左右の眼に異なる画像を見せると、意識的に知覚される画像が数秒ごとに切り替わります。この現象を研究することで、知覚に対応する脳活動を特定できます。高次視覚野（下側頭葉）では、細胞が知覚的に優位な刺激に反応することが示されています。

フラッシュサプレッションは、片方の眼の画像を、もう片方の眼のフラッシュで抑制する現象です。この現象では、高次視覚野の活動が知覚と一致することが示されています。これらの研究から、視覚意識には高次視覚野の活動が重要であることがわかります。

フィードフォーワード投射とフィードバック投射

感覚入力に対する応答は、高速で自動的なものと、遅く意識的なものがあります。自動的な応答は、反射的な行動やてんかんの発作時に見られるような定型的な行動として現れます。一方、意識的な応答は、より複雑な問題を解決するために必要です。

視覚処理において、情報は大脳皮質の背側経路と腹側経路を伝達されます。背側経路は、空間的な情報処理に関わり、自動的な行動を仲介します。腹側経路は、オブジェクト認識に関わり、意識的な知覚に関与します。複雑な視覚処理は130～150ミリ秒で完了し、これは眼球運動や意識的な知覚が起こるには遅すぎます。

意識的な知覚には、大域的なフィードバック活動が必要であると考えられています。このフィードバック活動は、頭頂葉、前頭前皮質、視床などの領域を巻き込み、短期記憶、多感覚統合、計画などの処理を支えます。このフィードバック活動は、グローバルワークスペース理論の核心となる仮説です。

まとめ

NCCは、意識の神経基盤を理解するための重要な概念です。脳の特定の領域や神経活動が意識的な体験にどのように関与しているのかを解明することで、意識の謎に迫ることができます。視覚研究は、NCCの理解に大きく貢献しており、様々な実験手法を通じて、知覚と脳活動の関係が明らかになってきています。また、意識的な処理には、フィードバック投射が重要な役割を果たしていると考えられています。

意識の理解は、まだ多くの謎に包まれていますが、NCCの研究は、その解明に大きく貢献することが期待されます。

参考文献

参考文献は省略します。

脚注

脚注は省略します。

外部リンク

外部リンクは省略します。

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