愛護若

説経浄瑠璃『愛護若』の概要

『愛護若』（あいごのわか）は、少年愛護若を主人公とした説経節および説経浄瑠璃であり、「愛護若民譚」を素材としていると考えられています。この作品は、貴種流離譚というジャンルに属し、特に山王信仰に深く関連しています。『愛護若』は六つの段に分かれた構成を持ち、内容は前半と後半に分かれて展開されます。また、他の説経作品である『苅萱』『山椒太夫』『信田妻』『梅若』とともに五つの主要な説経として親しまれ、後の浄瑠璃や歌舞、音楽にも大きな影響を与えました。

あらすじ

物語のスタートは左大臣の二条蔵人清平とその妻から始まります。この夫婦は子供を持たず、初瀬観音に子を授けるよう願いますが、夢の中で菩薩から「宿因によって子供を持つことはできない」と告げられます。しかし、清平夫妻はこの運命をあきらめず、さらに祈り続けた結果、子供を授かりますが、三つの年齢に達した際に両親のどちらかが死ななければならない運命が待っていました。

13歳を迎えた愛護若の両親は元気でしたが、疑念を抱いた母は神仏の言葉に疑問を持ち、初瀬観音の怒りを買い、命を落としてしまいます。残された愛護若は、父の再婚や継母の雲井からの邪恋に悩まされ、誤解によって盗人の汚名を着せられ、父からも見放されてしまいます。若は猿の助けを求めるも、母の霊に導かれ、伯父の阿闍梨のもとを目指す旅に出ます。

放浪の途中、細工の夫婦に助けられるも、様々な禁制に直面し、結局は一人で伯父と会うも、逆に天狗と思われ、大勢に打たれます。そこで助けを受けるも、様々な災難に遭いながらも彼を助けようとした人々に感謝しつつ、最終的には自身の血で遺書を残します。愛護若は「かみくら（神蔵）やきりうが滝」へ身を投げ、阿弥陀如来への祈りを捧げながら、西方浄土へと昇華を果たします。

愛護若の遺族たちは彼の後を追い、また継母は罪を受け、龍として愛護若の命を背負って現れることになります。最終的には合計108人が彼と共に命を落とし、若は山王権現として祀られます。

愛護若民譚の解説

折口信夫は『愛護若』の後半が1734年に成立した「愛護若民譚」と酷似していることを指摘し、民譚のストーリーと日吉社の縁起との関連を見出しました。若が身を投げた神蔵の地は、最澄の生誕に関わる重要な場所でもあり、愛護若の物語は神仏の祈願に基づいて主人公が生まれて苦難を経て神仏に転生するというストーリーの一例となっています。

この物語は、伝説や信仰に基づいた多くの要素が含まれており、愛護若が象徴する水神の性格などが物語全体に影響を与えています。様々な伝承が交錯し、若が投身した滝やその近隣の信仰もまた、多くの解釈と伝説の源泉となっています。これにより『愛護若』には、様々な宗教的、文化的背景が含まれ、多様な視点から語り継がれる重要な作品となっています。

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