苅萱

苅萱（かるかや）とは

苅萱とは、出家した武士、苅萱道心とその息子石道丸をめぐる物語です。この物語は、説経節、浄瑠璃、歌舞伎、読本など、様々な形で作品化され、人々に長く愛されてきました。特に説経節においては「五説教」の一つとして重要な演目であり、近年では教育漫画などにも取り上げられています。主人公の名から、石童丸（いしどうまる）とも呼ばれることもあります。

あらすじ

物語は、筑前国の武将、加藤左衛門尉繁氏が、妻と妾の醜い嫉妬心に世の無常を感じ、全てを捨てて出家するところから始まります。彼は寂昭坊等阿法師、後に苅萱道心と名乗り、源空上人（法然）のもとで仏道修行に励むことを誓います。そして、二度と家族には会わないと決意し、高野山へと向かいます。

一方、息子の石童丸は、父親の顔を知らずに育ちます。14歳になった時、彼は出家した父親の話を聞き、母親とともに父親探しの旅に出ます。旅の途中で出会った僧侶から、高野山に父親らしい僧がいることを知った石童丸は、母親を麓の宿に残し、一人で山に登ります。そこで偶然出会った僧侶こそ、他ならぬ父親の苅萱道心でした。しかし、道心は目の前の少年が自分の息子だと気づきながらも、棄恩入無為の誓いを守るため、自分が父親であるとは名乗らず、「そなたの父親はすでに死んだ」と嘘をつきます。それを聞いた石童丸は悲嘆にくれ、山を下ります。

高野山から戻った石童丸を待っていたのは、母親の死でした。頼る身内を失った石童丸は、再び高野山に登り、苅萱道心の弟子となり共同生活を始めますが、道心は生涯、真実を語ることはありませんでした。石童丸もまた、道心を父親と知ることなく、その生涯を終えるという悲しい結末を迎えます。

成立

苅萱物語は、高野山萱堂（刈萱堂）を中心とする萱堂聖と呼ばれる集団によって生み出され、伝承されてきたと言われています。物語の原型となる遁世説話は中世には複数存在し、『西行物語』序盤の西行が出家に至る経緯や、『平家物語』の斎藤時頼出家の逸話なども、その一つとして挙げられます。室町時代に入り、これらの説話をもとに、謡曲や説教の『苅萱』が作られました。

江戸時代中期には、説教を基に浄瑠璃『石童丸』や『苅萱道心物語』が作られ、歌舞伎『苅萱桑門筑紫いえづと』へと発展しました。また、日本各地の苅萱伝説を集めた勧化本『苅萱道心行状記』が作られ、妻と妾の争いなど新たなエピソードや、出家後の房号法名などの設定が加えられ、物語が整えられていきました。

伝説

崇徳天皇の時代、博多の守護職であった苅萱道心の父、加藤繁昌は、子宝に恵まれず、香椎宮に祈願したところ、「石堂口付近にある温石を妻に与えると男子が生まれる」というお告げを受けます。そのお告げ通りに、古い地蔵尊の左手に光る石を見つけ、妻に与えたところ、やがて懐妊し、生まれた子供を石堂丸と名付けました。この温石があった石堂地蔵は、博多にあった七堂の一つであり、刈萱地蔵、子授け地蔵とも呼ばれています。

成長した石堂丸は、加藤左衛門尉繁氏として父の守護職を継ぎ、太宰府の刈萱の関の関守となりました。太宰府市坂本には、刈萱の関跡の標柱があり、伝説のゆかりの地となっています。

また、高野山に去った繁氏を追った妻の千里は、播磨国の太山寺で石童丸を出産したと伝えられており、神戸市西区には石童丸産湯の井戸が現存しています。高野山北麓の参詣口にあたる学文路では、石童丸母子は玉屋という宿屋に逗留し、千里はこの地で亡くなったと言われています。橋本市学文路の苅萱堂仁徳寺には、苅萱親子を祀る親子地蔵と千里の墓があります。

芸能・文学上の「苅萱」

中世に起源をもつ「苅萱」の物語は、多くの人々の心を捉え、様々な芸能や文学で重要なテーマとして扱われてきました。以下にその代表的な例を挙げます。

『苅萱』（説教節、謡曲）
『苅萱道心行状記』（勧化本）
『苅萱道心物語』（浄瑠璃）
『石童丸苅萱物語』（読本：滝沢馬琴、1806年）
『苅萱道心』（歌舞伎）
『苅萱絵詞伝』（絵解き）
『苅萱親子一代記』（勧化本）
『石童丸』（浄瑠璃）
『石童丸のお話』（絵解き）

関連項目

西光寺 － 石童丸の父親である苅萱上人が開いたと伝わる寺院。
往生寺 － 苅萱上人の墓がある寺院。
密厳院 － 境内に刈萱堂がある。
坂本八幡宮 － 大宰府坂本の苅萱関の碑が近くにある。

参考資料

久野俊彦『絵解きと縁起のフォークロア』森話社、2009年。ISBN 9784864050012。
劉寒吉; 角田嘉久『福岡の伝説』角川書店〈日本の伝説〉、1979年。

外部リンク

説経節 若松若太夫 若松派（説経節にて石童丸を上演）

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