慈愛 (クラナッハ)

[ルーカス・クラナッハ]作「慈愛」について

作品概要

「慈愛」（じあい、蘭: Caritas、英: Charity）は、ドイツ・ルネサンス期の画家ルーカス・クラナッハ（父）によって1540年に描かれた油彩画です。板に油彩で描かれており、子供に乳を含ませるという伝統的な図像を、蠱惑的に表現した作品として知られています。この作品は、1841年にフロレント・ファン・エルトボルン氏によってベルギーのアントワープ王立美術館に遺贈され、現在も同美術館に所蔵されています。

背景

ルーカス・クラナッハ（父）は、同時代のドイツ人画家の中で最も成功した画家の一人であり、その制作活動の多くをザクセン選帝侯領の宮廷画家として過ごしました。彼は、ドイツの王子たちの肖像画、裸体画、そして自身も熱烈に支持したプロテスタントの宗教改革指導者たちの肖像画で広く知られています。マルティン・ルターとは親しい友人関係にありました。クラナッハは、初期にはカトリックの伝統に根ざした宗教的主題の作品を描いていましたが、後にルーテル教会の宗教的関心を芸術を通じて表現する新しい方法を模索しました。

クラナッハが描く神話的情景の絵画には、常に細身の女性像が登場します。これらの女性像は、透明な布と大きな帽子以外は裸体で描かれることが多いのが特徴です。彼の初期作品には、1505年頃にザクセン公国宮廷に滞在したイタリア人画家ヤコポ・デ・バルバリの影響が見られます。しかし、フリードリヒ3世の死後、イタリアの影響を脱却し、後期ゴシックの様式を取り入れた明瞭な様式へと変化しました。

作品詳細

「慈愛」、すなわち「慈悲」を擬人化した若い母親が、裸体を透明な布で覆い、子供に授乳しています。彼女は別の子供に抱きかかえられており、足元には小さな男の子が座り、彼女に触れています。母親は、リンゴの木の下の石の台に腰掛けており、背後には茂みがあり、その向こうには美しい山の風景が広がっています。

美術史家のマックス・J・フリードレンダーとヤコプ・ローゼンベルクは、この作品には6点のバージョンが存在することを指摘しており、これらのバージョンから、本作の制作年が1537年以降であると推測されています。

1529年以降、「慈愛」はクラナッハの作品における重要なテーマの一つとなりました。彼は、それまで一連の徳と悪徳の主題の一部として描かれていた「慈愛」を単独で取り上げ、記念碑的な存在として描きました。また、クラナッハは「慈愛」の寓意像を、多かれ少なかれ裸体像として描いたことでも知られています。彼が用いた透明なベールは、アダムとエバが股間を覆ったイチジクの葉以上の役割を果たさず、同時に視覚的な快楽を高める効果をもたらしました。

3人の子供たちに囲まれた裸体の「慈愛」を描くことで、プロテスタントであったクラナッハは、自身の主題と絵画を母性愛の特質で満たしました。しかし、彼は絵画の象徴的な側面よりも、むしろ身体的な表現に関心があったと考えられます。同一の女性モデルを描いた一連の裸体像は、クラナッハの作品によく見られる特徴であり、彼はこれらの裸体像を神話や聖書の場面に登場させることで、作品に独自の魅力を与えました。

参考文献

• - 千足伸行監修『週刊世界の美術館 No.53 アントワープ王立美術館』、講談社、2001年2月刊行

外部リンク

• - アントワープ王立美術館公式サイト、ルーカス・クラナッハ『慈愛』(英語)

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