慧超

慧超（えちょう）

慧超（704年 - 787年）は、新羅出身の高僧で、唐に渡り密教を学び、その後インドへ旅をして『往五天竺国伝』を著しました。彼の生涯は、当時の仏教文化交流と国際的な視野を象徴しています。

生涯

慧超は幼少の頃に唐に渡り、719年頃に広州で南インド出身の僧侶・金剛智から密教を学びました。金剛智の勧めにより、722年頃に海路でインドへ向かい、数年間インド各地を旅しました。その後、中央アジアを経て727年に唐へ帰国し、『往五天竺国伝』を著しました。

帰国後、慧超は長安の大薦福寺で金剛智のもとで翻訳事業に従事し、金剛智の死後は不空の指導を受けました。780年には五台山で『大乗瑜珈金剛性海曼殊室利千臂千鉢大教王経』を翻訳した記録があります。近年の研究で、787年に死去したことが判明しましたが、唐の高僧伝には慧超の伝記がないため、その生涯については不明な点が多く残されています。

往五天竺国伝

『往五天竺国伝』は、慧超がインドの五つの地域（中インド、北インド、南インド、東インド、西インド）を旅した記録です。この書は、玄奘の『大唐西域記』のように後世に広く伝わったものではなく、20世紀初頭にフランスの東洋学者ポール・ペリオが敦煌莫高窟で発見した敦煌文献の一つです。

書物の冒頭と末尾が欠けていたため、当初は著者が不明でしたが、ペリオの研究により慧超の著作であることが判明しました。ペリオが発見する以前には、慧琳の『一切経音義』に収録された音義がわずかに現存するのみでした。

『往五天竺国伝』は、漢文としては必ずしも洗練された文章ではありませんが、8世紀にイスラム勢力が中央アジアに進出し、中国との連絡が途絶えていた時代のインド情勢を記録した貴重な資料として、非常に高い歴史的価値があります。特に、イスラム軍がインダス川流域のシンド地方に侵攻した同時代の記録は、他の資料では確認できない貴重な情報です。

ポール・ペリオをはじめ、世界中の東洋学者がこの書を研究しており、近年では中国の張毅による『往五天竺国伝箋釈』（中華書局）が出版されています。日本では、桑山正進編纂による『慧超五天竺國傳研究』（京都大学人文科学研究所、1992年）が出版され、研究が進められています。

まとめ

慧超は、新羅から唐へ渡り、密教を学び、インドでの旅を通じて『往五天竺国伝』を著した僧侶です。彼の記録は、8世紀のインド情勢、特にイスラム勢力による侵攻の状況を伝える貴重な資料であり、歴史研究において重要な意味を持っています。彼の生涯は、当時の国際的な文化交流の一例として、また、仏教研究における重要な史料として、後世に語り継がれるべきです。

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