慧遠 (東晋)

慧遠（えおん）

慧遠は、中国東晋時代に廬山に住んだ高僧であり、同名の隋代の慧遠と区別するために「廬山の慧遠」とも呼ばれます。俗姓は賈氏で、中国仏教史において非常に重要な人物の一人です。

生涯

慧遠は、雁門郡楼煩県（現在の山西省忻州市寧武県）の出身です。21歳の頃に釈道安に師事し出家しました。道安に従って各地を転々としましたが、襄陽にいた時に前秦の苻堅が侵攻し、道安が長安に連れ去られたため、慧遠は師と別れて南下し、荊州上明寺に移りました。

その後、尋陽郡柴桑県に至り、廬山に入り、西林寺、後に東林寺に住みました。それから30年余りの間、慧遠は一度も山を出なかったと伝えられています。この故事に基づいた「虎渓三笑」の逸話は有名です。

401年、鳩摩羅什が関中に迎えられ、後秦の都長安で国師となると、慧遠は鳩摩羅什と書簡を交わし、新しく翻訳された経典についての疑問などを問い質しました。この書簡集が『大乗大義章』としてまとめられています。

402年、慧遠は同志123名と共に廬山の般若台にある阿弥陀仏像の前で念仏の実践を誓いました。このことから、慧遠は白蓮社の祖とされています。ただし、慧遠の念仏は、後世の浄土三部経に基づく称名念仏とは異なり、『般舟三昧経』に基づいた禅観の修行法でした。

また、当時、廬山を含む長江中流域を支配していた桓玄に対し、仏法は王法に従属しないという考えを明確に示したのが『沙門不敬王者論』です。

持戒堅固な慧遠は戒律の整備にも尽力し、『十誦律』の翻訳と普及に貢献しました。

著書

『沙門不敬王者論』
『法性論』
『釈三報論』
『大智度論抄』
『大乗大義章』

訳経

『阿毘曇心論』（僧伽提婆と共訳）

伝記資料

『出三蔵記集』巻15「慧遠法師伝第三」
『高僧伝』巻6「晋廬山釈慧遠伝」

慧遠は、その高潔な人柄と仏教への深い理解によって、多くの人々から尊敬を集めました。彼の教えは、今日においても多くの人々に影響を与え続けています。

もう一度検索