戊午の密勅

戊午の密勅とは

戊午の密勅（ぼごのみっちょく）は、安政5年（1858年）に孝明天皇が水戸藩に直接下した勅命です。これは、幕府が朝廷の許可を得ずに日米修好通商条約を締結したことに対する、天皇の強い不満の表明でした。「戊午」は勅命が下された年の干支に由来し、「密勅」は正式な手続きを踏まずに関白を通さずに下されたことに由来します。

密勅に至る経緯

条約調印後、孝明天皇は幕府に対し、条約に関する詳細な説明を求めましたが、十分な回答は得られませんでした。そこで天皇は、幕府を通さずに直接諸藩に働きかけることを決意します。当初、薩摩藩が最有力候補でしたが、藩主の急死により、水戸藩と長州藩に勅命を下すことになりました。

勅命は、水戸藩の京都留守居役を通じて藩主・徳川慶篤に伝えられました。内容は、条約調印に対する天皇の不満、幕府への詳細な説明要求、そして幕府と協力して攘夷を進めるようにというものでした。また、この勅命を水戸藩から諸藩に回覧するようにという指示も含まれていました。

密勅が与えた影響

この密勅は、幕府の権威を大きく揺るがすことになりました。本来、天皇の命令は幕府を通じて諸藩に伝えられるべきでしたが、密勅はそれを無視する形となったからです。幕府は密勅の内容を秘匿しようとしましたが、写しが雄藩に広まり、政局はさらに混乱しました。

水戸藩では、密勅への対応を巡って藩論が二分されました。勅命に従い諸藩に回覧すべきとする改革派と、朝廷または幕府に返納すべきとする保守派が対立し、藩内は混乱を極めました。幕府は水戸藩に対し、勅命の返納を命じましたが、改革派はこれに強く抵抗しました。

幕府は、密勅に関与した者を厳しく処罰し、安政の大獄が始まりました。水戸藩では、家老が切腹、関係者が処刑されるなど、多くの犠牲者が出ました。この事件は、幕府と朝廷の対立を激化させ、幕末の動乱へとつながっていきます。

密勅の内容（要約）

1. 勅許なく日米修好通商条約に調印したことへの天皇の怒り。
2. 幕府は朝廷と協力して攘夷を実行せよとの命令。
3. 水戸藩は、この勅命を諸藩に回覧せよとの指示。

密勅を巡るその後

水戸藩内での対立は激化し、遂には桜田門外の変を引き起こします。また、勅命の返納問題も尾を引き、水戸藩は分裂状態のまま明治維新を迎えることになりました。

戊午の密勅は、幕末の政治情勢を大きく左右した出来事として、歴史に深く刻まれています。天皇の意思が直接政治に介入したことで、幕府の権威は失墜し、倒幕運動へと繋がっていきました。また、水戸藩においては、藩論の分裂を招き、悲劇的な結末を迎えることとなりました。

関連事項

桜田門外の変
安政の大獄
公武合体
尊王攘夷運動

もう一度検索