戊戌夢物語

戊戌夢物語

『戊戌夢物語』（ぼじゅつゆめものがたり）は、江戸時代後期の蘭学者、高野長英によって1838年（天保9年）に著された書物です。モリソン号事件を題材とし、幕府の対外政策を批判的に考察した内容となっています。

成立の背景

本書が執筆された背景には、天保9年（1838年）に起きたモリソン号事件があります。アメリカの商船モリソン号が漂流民を送り届けるために来航しましたが、幕府は異国船打払令に基づき、これを砲撃しました。この事件をきっかけに、長英は幕府の鎖国政策に疑問を抱き、その危険性を訴えるために『戊戌夢物語』を著しました。

長英は、尚歯会という会合で、幕府の評定所におけるモリソン号再来に関する答申案について情報を得ます。幕府の方針はオランダ船による送還のみを認めるというものでしたが、会合では強硬意見のみが紹介されたため、長英らは幕府が打ち払いの方針であると誤解し、危機感を募らせました。

内容

『戊戌夢物語』は、長英が幕府の対外政策を批判することを恐れ、匿名で執筆されました。内容は、夢の中で知識人たちが議論を交わすという形式で、モリソン号事件を批判的に考察するものです。前半では幕府の対外政策を肯定する一方で、後半では交易を拒否した場合の報復の危険性を暗示するという巧妙な構成になっています。

長英は、モリソン号を打ち払った幕府の対応がいかに無謀であるかを説き、鎖国政策の弊害を訴えました。また、モリソンを船名ではなくイギリス人の名称として扱っている点も特徴的です。これは、モリソンが乗船していた船が砲撃を受けたと勘違いしたためと考えられています。

影響

『戊戌夢物語』は写本として広まり、大きな反響を呼びました。その内容は幕府に危機意識を抱かせ、長英自身も後に蛮社の獄で投獄されることになります。また、『夢々物語』や『夢物語評』など、本書の内容に意見を唱える書物も現れました。

参考文献

田中弘之 『「蛮社の獄」のすべて』（吉川弘文館、2011年）

外部リンク

奥州市'>夢物語（写本の画像と読み下し文あり） - 奥州市

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