高野長英

高野長英：開国を唱えた蘭学者、その生涯と功績

高野長英（たかの ちょうえい）は、江戸時代後期に活躍した医者であり、蘭学者です。文化元年（1804年）に陸奥国で生まれ、嘉永3年（1850年）に悲劇的な最期を遂げるまで、医学、蘭学の発展に貢献し、幕府の鎖国政策を批判し続けました。彼の生涯は、当時の社会情勢と深く結びついており、その行動は多くの人々に影響を与えました。

生い立ちと蘭学への傾倒

高野長英は、陸奥国仙台藩の支藩である水沢伊達家の家臣、後藤実慶の三男として誕生しました。幼名は悦三郎、諱は譲（ゆずる）。号は瑞皐（ずいこう）です。父は水沢藩の医師であり、母方の叔父である高野玄斎もまた医師でした。玄斎は杉田玄白に蘭法医学を学んだことから、高野家には蘭書が多く、長英は幼い頃から西洋の学問に強い興味を持つようになりました。

17歳で江戸に遊学し、杉田伯元の門下に入り蘭学を本格的に学び始めます。その後、吉田長淑に師事し、オランダ医学を修め、師から一字を授かり「長英」と名乗るようになります。さらに長崎に留学し、シーボルトの鳴滝塾で医学・蘭学を深め、シーボルトからドクトルの称号を授与されるほどになりました。

シーボルト事件と逃亡

文政11年（1828年）に発生したシーボルト事件は、長英の人生に大きな転換をもたらします。シーボルトの不正が発覚し、多くの弟子が逮捕される中、長英は長崎から逃れて身を隠すことになります。この事件で、長英は幕府の警戒対象となり、以降、逃亡生活を余儀なくされます。

江戸での活動と蛮社の獄

逃亡生活の中、長英は江戸に戻り、町医者として開業する傍ら蘭学塾を開きました。また、渡辺崋山などの知識人と交流を深め、蘭学書の翻訳にも携わりました。また、天保の大飢饉対策として、ジャガイモの栽培を勧める『二物考』を執筆するなど、社会貢献にも積極的に関わりました。

しかし、天保8年（1837年）に起こったモリソン号事件をきっかけに、長英は幕府の攘夷政策を批判する『戊戌夢物語』を執筆。これが幕府の怒りを買い、天保10年（1839年）に蛮社の獄で捕らえられ、終身刑を宣告されました。

脱獄と潜伏生活、そして最期

獄中では、服役者の医療に尽力する一方、劣悪な牢内環境の改善を訴え、牢名主として慕われました。また、獄中で『わすれがたみ』を著し、自らの無実を主張しました。弘化元年（1844年）には牢屋敷の火災に乗じて脱獄に成功。その後、各地を転々としながら潜伏生活を送りました。

一時、宇和島藩主の伊達宗城の庇護を受け、兵法書の翻訳や砲台の設計などを行いましたが、嘉永2年（1849年）に潜伏が露見。江戸に戻り、名前を変えて医者を開業しますが、嘉永3年（1850年）に密告により捕縛され、自刃して生涯を閉じました。享年47歳でした。

死後の評価と顕彰

長英の死後、その功績は高く評価されるようになり、明治31年（1898年）には正四位が追贈されました。彼の著作や思想は、後世の学者や知識人に大きな影響を与え、現在でも多くの書籍や研究で彼の業績が紹介されています。故郷の水沢では、高野長英を顕彰する記念館が建てられ、彼の生涯と功績を今に伝えています。

主要な著作と作品

長英は、多くの著作を残しています。主なものとして、『戊戌夢物語』、『わすれがたみ』、『三兵答古知機』などがあります。また、多くのオランダ語文献の翻訳にも携わりました。これらの著作は、当時の社会情勢や蘭学の発展を知る上で貴重な資料となっています。

まとめ

高野長英は、その生涯を通じて蘭学の普及に尽力し、幕府の鎖国政策に異を唱えた先駆者でした。彼の行動は、時代を先取りしたものであり、多くの人々に勇気と希望を与えました。その波乱に満ちた生涯は、現代においても多くの人々に語り継がれています。

参考文献

『高野長英全集』
『華山・長英論集』
『日本の名著25 高野長英ほか』
鶴見俊輔 『評伝高野長英』
佐藤昌介 『高野長英』
田中弘之 『「蛮社の獄」のすべて』

高野長英が登場する主な作品

小説

山田風太郎『伝馬町から今晩は』
吉村昭『長英逃亡』
山手樹一郎『崋山と長英』
黒崎裕一郎『蘭と狗 長英破牢』
ジェームス三木『ドクトル長英』
青山淳平『長英逃亡潜伏記 高野長英と伊達宗城異聞』

戯曲

真山青果『玄朴と長英』

テレビドラマ

『花の生涯』
『天下堂々』
『勝海舟』
『新 必殺からくり人』
『影の軍団Ⅳ』
『父子鷹』
『大追跡! 江戸〜上州〜みちのく〜四国』
『小吉の女房2』

漫画

みなもと太郎『風雲児たち』

アニメ
* 『天保異聞 妖奇士』

もう一度検索