成松長正

成松長正：軍人からパン職人へ、激動の生涯

成松長正（なりまつ ながまさ、1913年5月13日 - 1995年11月13日）は、日本の軍人、そして実業家として激動の時代を駆け抜けました。宮崎県出身の彼は、戦前は陸軍将校として、終戦時は陸軍少佐の階級にありました。戦後は、地元で製パン会社「第一パン」を設立し、その経営者として成功を収めました。

軍人としての経歴

1913年、宮崎県に生まれた成松は、1936年に陸軍士官学校を卒業。陸軍少尉に任官し、津歩兵第33連隊に配属されました。1937年には日中戦争に出征し、南京への進撃中に無錫攻略戦で右肩を銃撃され重傷を負いました。東京での1年間の入院治療を経て、1939年には外国暗号解読将校に任官し、参謀本部や支那派遣軍で勤務しました。

1941年、太平洋戦争開戦直前にはフランス領インドシナのサイゴンに赴任。その後、マレー作戦に参加し、マレー半島を南下。プノンペン、バンコクを経て、マレーシアのスンゲイパタニに移動しました。その後、南方総軍特殊情報部のジャワ島派遣機関長として、バタビヤ近郊のバンドンに約1年間駐在。1943年には陸軍少佐に進級し、第8方面軍（南東方面軍）の特殊情報部（在ラバウル）に転勤。1945年、ラバウルで終戦を迎えました。

故郷での再起と製パン業への挑戦

1947年に復員し宮崎県に戻った成松は、公職追放のため無職となります。しかし、1949年には株式会社さくらパンを開業し、製パン業に乗り出します。1963年には、県内の製パン業者を合同させ、第一パンを設立、代表取締役に就任しました。1970年に第一パン代表取締役を辞任するまで、宮崎県における製パン業界の発展に大きく貢献しました。

その後の人生

1979年には、約8ヶ月間世界各地を旅行し見聞を広めました。1995年11月13日、前立腺癌のため逝去。享年82歳でした。妻貞子との間に一女一男をもうけ、長女は横浜市在住、長男は宮崎市内で自動車販売業を営んでいます。

成松長正のエピソード

成松家のルーツは、大分県にあり、庄屋を務めていた家系でした。成松という姓は、鎌倉時代に大友能直に遡ることができるとされています。成松の父は、大分県から宮崎県に出稼ぎに来た後、そのまま宮崎県に定住しました。

成松の名前は、兄が歴史上の人物である「山田長政」にあやかって付けようとしましたが、父親が誤って戸籍に「長正」と登録してしまったため、そのまま「長正」となりました。陸軍士官学校卒業前には満州・朝鮮の戦跡視察旅行に参加し、朝鮮の貧しい状況に日本の統治に対する義憤を感じたと言います。

陸軍士官学校時代、成松はユーモア溢れる人物として周囲から愛されていました。同窓会誌には、彼の独特な九州弁と朴訥な人柄が笑いを誘い、皆を楽しませたエピソードが紹介されています。また、日中戦争では、便衣兵をむやみに攻撃しないように部下に訓示するなど、人道的な一面も持ち合わせていました。

無錫攻略戦での負傷後は、英語力を活かし暗号解読の任務に従事。支那派遣軍時代には、重慶の米国大使館から発信される暗号電報を解読していました。終戦時には、ラバウルで今村均大将による終戦の詔勅の奉読に立ち会い、その場にいた将校たちと男泣きをしたと述懐しています。

復員後は、塩作りや闇食料の担ぎ屋をするなど、苦労を重ねながら生活を立て直しました。製パン業を始めてからも、闇市での原料調達や警察の取り調べ、自宅を改造したパン工場での生活など、苦労が絶えなかったようです。しかし、その努力が実を結び、さくらパンは県内最大手に成長。その後、県外の大手製パン業の進出に対抗するため、県内の製パン業者をまとめ、第一パンを設立。高度成長期とともに会社は成長しましたが、労働組合との争議に嫌気がさし、社長を辞任しました。その後、第一パンは熊本製粉に買収されています。

著作

成松長正は、以下の著作を出版しています。

『学盲説法』（1975年）
『簡単に実現する日本の文字革命』（1987年）


成松長正は、軍人としての顔だけでなく、実業家としてもその手腕を発揮し、波乱に満ちた人生を送りました。彼の生涯は、激動の昭和という時代を象徴するものと言えるでしょう。

もう一度検索