戒覚

戒覚（かいかく）は、平安時代後期に活躍した僧侶で、俗姓は中原氏です。彼は比叡山で40年もの間修行を重ね、伝灯大法師という位にまで昇りつめました。その後、播磨国（現在の兵庫県南部）の実報寺や引摂寺といった寺院に移り住んでいます。

1082年（永保2年・元豊5年）の9月5日、戒覚は長年待ち望んだ宋への渡航を、ついに実行に移します。しかし、それは朝廷からの正式な許可を得ない、いわば密航でした。彼は弟子たちと共に、博多で宋の商人である劉琨の船に乗り込みました。船底に身を潜め、排泄を避けるために食事も制限するという厳しい状況下での航海だったと伝えられています。船は北崎浦で数日間風待ちをし、21日にようやく明州（現在の寧波）に到着しました。

明州からは船で開封（現在の河南省開封市）を目指し、70日間かけて翌1083年（元豊6年）2月20日に到着しました。その道中、宋州で象を見物した様子が、彼の著作『渡宋記』に記録されています。開封では戒壇院に滞在し、3月5日には神宗皇帝に謁見し、紫衣を賜るという栄誉に浴しました。

その後、5月8日に五台山（現在の山西省）に向けて出発し、6月8日に五台山真容院に到着。6月11日には、戒覚と弟子の仙勢の真容院への永住が認められました。6月15日、戒覚は五色の光を放つ「菩薩石」や五台山の土と茸、そして自身の旅の記録である『渡宋記』を引摂寺に託すことを記し、『渡宋記』の筆を擱きました。これらの品々は、帰国する弟子の隆尊によって日本へと持ち帰られたと考えられています。

戒覚は歌人としても才能を発揮しており、『万代和歌集』には1首、『渡宋記』には2首の和歌が収録されています。

『渡宋記』は、戒覚が1082年9月5日から1083年6月15日までの出来事を記録した日記です。現在残っているのは、1229年（寛喜元年）に実報寺の実尊が筆写した抄本で、宮内庁に保管されています。この日記は1960年に再発見され、それまで南宋時代（1127年～1279年）に渡宋したと考えられていた戒覚の渡航時期が覆されるという、歴史研究における大きな発見となりました。

戒覚の生涯と業績は、日本の仏教史や日宋交流史を語る上で重要な位置を占めています。特に、『渡宋記』は、当時の宋の社会や文化、そして戒覚自身の心情を知る上で貴重な資料となっています。

参考文献
『渡宋記』, 国書データベース
宮内庁書陵部「"古代中世の対外関係資料" 展示目録」, 1989, p.9
福岡市「市史だより」18号, 2014, p.2
水口幹記『成尋』吉川弘文館人物叢書, 2023
森公章「遣外使節と求法・巡礼僧の日記」, 『日本研究』, 2011, p.347
『渡宋記』 - コトバンク

関連項目
奝然
寂照
* 成尋

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