或る女

或る女

『或る女』（あるおんな）は、大正時代に有島武郎によって発表された長編小説です。1911年1月に雑誌『白樺』で「或る女のグリンプス」として連載が開始され、1913年3月まで16回にわたり掲載されました。これは作品の前半部分にあたり、後半は書き下ろしとして『或る女』と改題され、1919年に叢文閣から刊行された『有島武郎著作集』の二巻として前後編で発表されました。

この作品は、佐々城信子をモデルにしたと言われていますが、結末は創作です。実際の佐々城信子は武井勘三郎との間に子供をもうけ、武井の死後も日曜学校などで活動し、71歳まで生きました。

登場人物とモデル

早月葉子 - 佐々城信子
木部孤笻 - 国木田独歩
倉地三吉 - 武井勘三郎
古藤義一 - 有島武郎
木村貞一 - 森広
早月親佐 - 佐々城豊寿
五十川女史 - 矢嶋楫子
田川夫妻 - 鳩山和夫・鳩山春子
* 内田 - 内村鑑三

あらすじ

早月葉子は、作家の木部孤笻と恋愛結婚するも、彼の俗っぽさに失望し、結婚生活は破綻します。彼女は妖婦的な魅力を持つ、恋多き美女でした。木部との間には娘がいましたが、木部に隠し乳母に預けていました。葉子は日本を離れ、亡き母の勧めで、アメリカのシアトルにいる実業家、木村貞一と結婚するためにアメリカへ向かいます。それは愛というより、日本からの逃避、華やかなアメリカ生活への憧れからでした。木村の友人である古藤は、葉子に良妻として生きるよう忠告しますが、葉子は嘲笑します。葉子は、美貌を武器に成功を掴むという考えを持っていましたが、そのために悪評が立ち、キリスト教指導者の内田からも見放されていました。

船の中で葉子は、上流階級の田川夫人を嘲弄し、留学生の岡などを魅了して社交界の中心人物となります。婚約者がいる身でありながら、船の事務長である倉地と恋に落ちますが、彼には妻子がいました。シアトルで木村に会った葉子は失望し、病気を理由に帰国します。そして倉地と生活を始めますが、倉地は妻子とは離婚したと嘘をつきます。二人は愛に満ちた生活を送りますが、やがてその関係が世間に知れ渡り、倉地は職を失い、葉子は親戚から縁を切られます。葉子は木村から送金させ生活費に充てますが、次第に生活は困窮していきます。倉地の気持ちが離れていくのではないかという恐怖に襲われた葉子は、妹たちを引き取り、そこに岡が訪ねてきます。生活に困窮した倉地は、海軍の機密情報を外国に売るという手段で生計を立てるようになり、葉子は衝撃を受けます。古藤は木村を利用している葉子を責め、葉子は罪悪感を感じます。葉子は子宮の病に侵され、倉地が妻子と別れていないのではないか、他の女性と関係を持っているのではないかという妄想に取り憑かれます。妹たちへの嫉妬、倉地の仕事の破綻、正井からの脅迫、妹の入院などが重なり、葉子の精神は錯乱し入院してしまいます。その後、倉地は失踪し、葉子は倉地への執着を抱きながら苦しむのでした。

評価

発表当初は、モデル小説であり通俗的であるとして評価されませんでしたが、戦後になり、日本近代文学として評価されるようになりました。フェミニズム批評の対象ともなり、広く読まれています。しかし、結末を懲罰とする見方もあり、評価は分かれています。

映画

1954年に大映で映画化されました。京マチ子が早月葉子を演じ、森雅之（作者・有島武郎の息子）が倉地三吉を演じました。

テレビドラマ

過去に二度テレビドラマ化されています。

翻訳

英語、フランス語、ルーマニア語に翻訳されています。

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