戦後エロマンガ史

『戦後エロマンガ史』は、漫画研究家・米沢嘉博氏による、戦後のエロマンガの歴史を網羅的に考察した書籍です。青林工藝舎から2010年に刊行されました。本書は、雑誌『アックス』での長期連載を元にしており、3度の中断を経て、著者の急逝により未完となった遺作です。

本書は、エロマンガの歴史を「エロマンガ前史」から語り起こします。その始まりとして、鳥獣人物戯画に描かれた性的なモチーフを指摘。そこから、カストリ雑誌の時代、1970年代末の三流劇画ブーム、1980年代のロリコンブーム、1990年代の美少女コミックと有害コミック騒動と、戦後から現代に至るエロマンガの変遷を、豊富な図版とともに詳細に解説しています。

本書の特徴は、エロマンガを単なる性的表現の産物としてではなく、社会や文化の動きと密接に結びついたものとして捉えている点です。春画や性愛文学、エログロナンセンスといった周辺ジャンルとの関連性にも触れ、多角的な視点からエロマンガの歴史を浮き彫りにしています。著者自身が『劇画アリス』の編集長として1970年代末の三流劇画ブームに関わった経験も、本書に深みを与えています。ロリコンブームや美少女コミックの隆盛、そして有害コミック騒動といった社会現象にも目を向け、エロマンガが社会に与えた影響も考察しています。

米沢氏の急逝により、本書は未完のままとなりました。しかし、その内容は「エロマンガ研究」における初期の重要な研究書として高く評価されています。多数の資料を駆使して、性的なテーマを扱った漫画を博物誌的に記述した点も、本書の価値を高めています。

『戦後エロマンガ史』は、単なる漫画史の枠を超え、戦後日本の文化史を理解する上でも貴重な一冊と言えるでしょう。エロマンガという切り口から、社会や文化の変遷を読み解く試みは、読者に新たな視点を与えてくれます。

本書は、第24回大衆文学研究賞大衆文化部門を受賞しています。

参考資料として、以下の外部リンクが挙げられます。
* 『戦後エロマンガ史』(青林工藝舎) 著者＝米沢嘉博 - S&Mスナイパー（ばるぼら）による書評記事

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