カストリ雑誌

カストリ雑誌とは

カストリ雑誌（カストリざっし）は、太平洋戦争終結後の日本において、出版自由化の波に乗っかって多数発行された大衆向け娯楽雑誌の総称です。これらの雑誌は、主に粗悪な用紙で印刷され、安価で手に入ることが特徴であり、内容は興味を引くためにエロティックなテーマや猟奇的な要素が多いのが一般的でした。具体的には、赤線地帯の記事や猟奇事件の報道、性生活の告白、ポルノ小説、さらには性的な興奮を引き起こす女性の写真や挿絵が目立ちました。これらの雑誌は、戦前の言論弾圧で姿を消していたエログロナンセンス文化を引き継いでおり、戦後のサブカルチャーに多大な影響を与えました。

語源

「カストリ」という言葉の由来には様々な説があります。一般的には、これらの娯楽雑誌の多くが廉価で発행され、通常は3号で休廃刊になることから、粗悪な酒「カストリ酒」に由来すると言われています。このカストリ酒は本来酒粕から作られる粕取り焼酎に関係があるのですが、当時は密造酒・粗悪な酒を指すことが多く、密造酒により健康被害が相次いだという背景があります。また、仙花紙（屑紙を漉き返した質の悪い紙）を用いて制作されていたことから、「カス・トリ」という名称がつけられたとも伝えられています。

検閲と出版環境

出版の自由化が進められたとはいえ、実際にはGHQによるプレスコードの下で厳しい検閲が行われました。このため、カストリ雑誌に対する検閲は非常に厳格であり、関連する記録は米国メリーランド大学のプランゲ文庫に保存されています。

当時は物価統制令の影響で、印刷用紙の配給も厳しかったため、カストリ雑誌を代表とする娯楽誌は、用紙の確保に苦労し、放置された仙花紙など劣悪な素材を使用することが多く、耐久性にも欠けていました。これにより、現存するカストリ雑誌は保存状態が悪くなることが一般的であり、古書店での収集や研究の対象とされています。

時代背景と内容

カストリ雑誌の盛況は1946年から1949年にかけてであり、当時は戦後の混乱が続いていました。昭和初期に発行されたエロ・グロ雑誌『グロテスク』のスタイルが引き継がれた部分も見られます。特に復員が進んだ1949年頃には、戦争体験を綴った手記も掲載されるようになり、多くの著名な文化人たちも寄稿に参加しました。例えば、永井荷風や江戸川乱歩、谷崎潤一郎などの著名作家たちがこのカストリ雑誌に短編小説や挿絵を提供しました。また、画家の東郷青児も一部の雑誌の表紙を手がけています。

主な雑誌には『赤と黒』や『猟奇』、そして最も知られる『りべらる』などがあります。特に『りべらる』は20万部を売り上げるなど多くの雑誌創刊に刺激を与えました。続いて、SM雑誌に移行した『奇譚クラブ』や『夫婦生活』なども同様の流れを汲んでいます。さらに、1950年代には『あまとりあ』や『裏窓』が続々と登場し、内容から見ると確かにカストリ雑誌の系譜とされることがあります。

このように、カストリ雑誌は戦後日本の特異な文化の一環として、当時の社会状況や人々の興味、感情を映し出した重要なメディアと言えるでしょう。特にエログロ文化の復活とそれに伴う表現の自由の模索は、戦後の大衆文化に深い影響を与えました。

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