鳥獣人物戯画

鳥獣人物戯画：ユーモラスな動物と人々の世界

京都市右京区の高山寺に伝わる国宝「鳥獣人物戯画」は、甲・乙・丙・丁の4巻からなる絵巻物です。動物や人物がコミカルに描かれており、「鳥獣戯画」とも呼ばれ、日本最古の漫画とも言われています。

絵巻物の内容と成立

この絵巻物は、平安時代末期から鎌倉時代初期（12～13世紀）にかけて制作されたと推定されています。しかし、各巻の画風や内容が大きく異なり、明確なつながりが見られないことから、複数の作者が別々に描いた作品を高山寺に集められたものと考えられています。

各巻の内容は次の通りです。

甲巻: 動物たちの水遊び、弓射競争、相撲など、様々な遊戯や喧嘩、法要の様子が描かれています。秋の情景が描写されている場面が多く見られます。近年の調査で、絵の順番が入れ替わっていることが判明し、室町時代の火災や流出の可能性が指摘されています。
乙巻: 身近な動物から、豹や虎、象、麒麟といった想像上の動物まで、多様な動物が写実的に描かれています。動物図鑑としての側面も持ち、絵師たちの参考資料として用いられた可能性も考えられています。
丙巻: 前半は人々の遊戯、後半は動物の遊戯が描かれています。興味深いことに、近年の修復作業で、元々一枚の和紙の表裏に人物画と動物画が描かれていたものが、後に二枚に剥がされ、繋ぎ合わされて現在の形になったことが判明しました。
丁巻: 人々の遊戯に加え、法要や宮中行事の様子も描かれています。奔放な筆致が特徴的で、他の巻とは明らかに異なる画風を示しています。

断簡と模本

長い年月を経て、鳥獣人物戯画は一部が欠損したり、順番が入れ替わったりしています。そのため、原本の一部と考えられる断簡や、原本を模写した模本が、東京国立博物館、京都国立博物館、ホノルル[[美術館]]などに多数現存しています。これらの断簡や模本は、絵巻物の本来の姿や、時代を経るにつれて絵巻に生じた変化を推測する上で重要な資料となっています。例えば、東京国立博物館所蔵の断簡は、蛙や狐、猿などがコミカルに描かれており、甲巻の一部と推定されています。重要文化財に指定されています。

他にも、益田家旧蔵断簡、高松家旧蔵断簡（ブルックリン美術館寄託）、MIHO MUSEUM所蔵断簡など、様々な断簡が存在します。模本としては、住吉家伝来模本、長尾家旧蔵模本（ホノルル[[美術館]]蔵）、京都国立博物館所蔵模本（狩野探幽模写）などが知られています。

作者と影響

作者については、鳥羽僧正覚猷（とばそうじょう かくゆう）という説が提唱されてきましたが、それを裏付ける資料はありません。各巻の成立年代や作者が異なることから、鳥羽僧正が関与していた可能性は低いと考えられています。

鳥獣人物戯画は、そのユーモラスな表現やダイナミックな構図から、後世の漫画やアニメーションにも影響を与えたと考えられています。現代においても、様々な形で再解釈され、親しまれています。例えば、短編映画や合唱曲、絵本、携帯ストラップ、カプセルトイ、フィギュア、テレビCMなど、多様なメディアで鳥獣人物戯画の世界観が表現されています。また、岩手県平泉町で出土した12世紀後半の遺物も、鳥獣人物戯画と同様の表現技法を用いており、当時の高度な芸術水準を示しています。

まとめ

鳥獣人物戯画は、そのユーモラスな表現、多様な動物や人物、そして謎めいた成立背景など、見る者を魅了する多くの魅力を秘めた作品です。今後も、新たな発見や研究を通して、その魅力がさらに解き明かされていくことでしょう。

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