戦火の馬

戦火の馬：少年と愛馬の壮絶な物語

『戦火の馬』（原題: War Horse）は、マイケル・モーパーゴによる1982年発表の小説です。第一次世界大戦下の英仏を舞台に、少年アルバートと愛馬ジョーイの運命を描いたこの作品は、世代を超えて多くの人々の心を捉え、舞台、映画へとメディアミックス展開を果たしました。

物語の背景：戦争と馬、そして人間の絆

モーパーゴは、イングランドのデヴォン州イズリー村に住む第一次世界大戦の退役軍人たちの証言から着想を得ました。彼らが語る戦争の悲惨さと、人々の苦悩、そして馬たちの犠牲は、モーパーゴに深く刻まれました。特に、騎兵隊で戦った退役軍人が、馬への深い信頼と依存を語ったことが、物語の核心を形作っています。

モーパーゴは、イギリスだけで100万頭以上の馬が戦争で命を落としたという事実を調べ上げ、さらに全軍で1000万頭もの馬が犠牲になったと推定しました。戦争は人間だけでなく、多くの動物の命も奪ったという事実が、この物語の重みを増しています。

また、モーパーゴは自身が設立したチャリティ団体「Farms for City Children」での出来事も、物語の創作に影響を与えています。吃音症の少年が馬に語りかける様子を目撃したモーパーゴは、少年と馬の間に生まれる特別な信頼関係に感銘を受け、馬の視点から戦争を描くというアイデアを思いつきました。

さらに、モーパーゴの妻が描いた、有刺鉄線に絡まった馬の絵も、物語に大きな影響を与えています。この絵は、戦争の残酷さと、馬たちが置かれた悲惨な状況を象徴的に表現しています。

あらすじ：少年と愛馬の運命

物語は、アルバートと彼の愛馬ジョーイの出会いから始まります。アルバートはジョーイを深く愛し、共に過ごしますが、やがてジョーイは軍馬として徴用され、フランスへと送られます。アルバートは若すぎるため軍に加わることはできませんが、ジョーイのため、いつか軍に入ると誓います。

ジョーイは様々な戦場を経験し、多くの兵士たちと出会い、友情を育みます。しかし、戦争の激しさの中で、ジョーイは幾度となく危険な目に遭い、様々な試練を乗り越えていきます。

ジョーイはドイツ軍に捕らえられ、ドイツ人家族に助けられます。農場で働くジョーイは、ドイツ人家族から愛情を注がれますが、再び戦場へと送られてしまいます。そして、戦友であるトップソーンを失い、自身も負傷します。

幾多の苦難を乗り越え、ジョーイは再びアルバートと再会を果たします。戦争が終わろうとする中、多くの馬たちが処分される運命にありますが、アルバートの必死の努力と、ジョーイを世話したドイツ人家族の助けにより、ジョーイは無事にアルバートのもとへ帰ります。

受賞歴と派生作品

『戦火の馬』は、発表後すぐに高い評価を受け、1982年にはウィットブレッド賞次点に選ばれました。その後、舞台作品としてロンドンのロイヤル・ナショナル・シアターで上演され、高い評価と数々の賞を受賞しました。

2011年には、スティーヴン・スピルバーグ監督によって映画化もされ、世界中で大ヒットを記録しました。小説、舞台、映画と、様々な形で人々の心に深く刻まれた作品となりました。

舞台と映画

舞台版は、実物大のパペットを用いた斬新な演出で知られており、数々の賞を受賞しました。映画版はスピルバーグ監督の手腕によって、戦争の悲惨さと、人馬の絆を美しく情感豊かに描いています。

モーパーゴと『戦火の馬』

モーパーゴは、自身の体験や、周囲の人々の証言、そして作品への影響を与えた絵画などを元に、『戦火の馬』を創作しました。彼の作品は、戦争の残酷さを描くだけでなく、人間の優しさや、動物との絆の大切さを改めて気づかせてくれる、感動的な物語です。

この小説は、第一次世界大戦という歴史的悲劇を背景に、少年と馬の純粋な友情、そして戦争の恐ろしさを描いた、時代を超越した名作であり続けています。

もう一度検索