戦車駆逐大隊 (アメリカ軍)

戦車駆逐大隊：アメリカ陸軍の対戦車部隊

戦車駆逐大隊（Tank Destroyer Battalion, TDB）は、第二次世界大戦中にアメリカ陸軍が運用した部隊です。敵機甲集団の進撃を阻止するため、高い機動力を活かした側面攻撃を目的として編成されました。

対戦車ドクトリンの策定

ドイツ軍の電撃戦は各国に衝撃を与え、アメリカ陸軍もその影響を受けました。1939年のポーランド侵攻、1940年のフランス侵攻から、十分な対戦車能力を持たない部隊では、大規模な機甲部隊の攻撃を防ぐことは困難であるという認識が広まりました。

1941年4月、対戦車戦闘に焦点を当てた検討委員会が開かれ、軍団または軍が指揮する機動対戦車部隊の創設が提案されました。各兵科が指揮権を主張する中、ジョージ・マーシャル将軍は諸兵科複合部隊とすることで解決を図り、アンドリュー・ブルース中佐を長とする対戦車計画委員会を創設しました。

歩兵師団などから部隊を集め、3個の対戦車大隊を有する3個の対戦車「集団」が編成され、敵機甲部隊への積極的な攻撃を任務としました。1941年夏にはルイジアナ演習が行われ、対戦車部隊は機甲部隊の攻撃阻止に成功。新ドクトリンの有効性が実証されました。

11月にはカロライナ演習も行われ、対戦車部隊の運用は成功と判断され、フォート・フッドに戦車駆逐戦術射撃センターが設立。部隊名も「戦車駆逐大隊」に改称されました。1942年6月には野戦教範18-5でドクトリンが明文化され、攻撃精神の重要性が強調されました。

北アフリカにおける初期の戦闘

1942年から43年にかけての北アフリカ戦線では、第1戦車駆逐集団の下で7個の戦車駆逐大隊が運用されましたが、ドクトリンに反して小隊規模に分割され、歩兵中隊の支援に用いられることが多くありました。エル・ゲタールの戦いでは、第601戦車駆逐大隊がドイツ軍第10装甲師団の攻撃を破砕しましたが、戦力の2/3を失い、その有効性について批判も起こりました。

ジョージ・パットンは戦車駆逐大隊の基本理念を「戦場の地形にそぐわない」と批判しましたが、マクネアは部隊の任務を「有利な位置を取り、完全に隠れた状態で敵戦車を不意打ちするための機動力のみ必要である」と定義し、反論しました。

北アフリカ戦を通じて、戦車駆逐大隊の過度な編成計画が見直され、M3 GMCやM10 GMCの欠点が認識されました。オマール・ブラッドレー将軍は牽引砲の再導入を提案し、実験的な大隊が編成されました。また、戦車駆逐戦術射撃センターでは、他部隊との協同や小規模の部隊行動に焦点が当てられるようになりました。

シチリア島及びイタリア戦線

1943年6月のシチリア島上陸、9月のイタリア本土上陸に始まるイタリア戦線では、枢軸軍の機甲部隊は健在でしたが、大規模な戦闘はほとんどありませんでした。戦車駆逐大隊は対戦車任務以外の火力支援などに用いられ、機甲部隊の任務を補完する役割が期待されるようになりました。

イタリア戦線では、牽引砲部隊への改編は当初考えられていたほどの利益をもたらさないことが判明しました。アンツィオの戦いでは、イギリス軍の対戦車砲部隊が簡単に撃破されたのに対し、自走砲部隊は後退して戦闘を継続できました。

イタリア戦線で主に用いられた戦車駆逐車両はM10 GMCでした。M18 GMCも運用されましたが、イタリアの地形ではその高い機動力を生かすことができませんでした。

西部戦線

西部戦線では最も多くの戦車駆逐大隊が運用され、D-Day当日に上陸した部隊も存在しました。1944年6月の野戦教範18-5の改訂版では、戦車駆逐大隊を分散して運用することが認められ、戦車駆逐車両を前進部隊に組み込むことが推奨されました。

ノルマンディーの戦いでは、第823戦車駆逐大隊がモルタンの戦いで防御戦闘を行い、大きな損害を受けました。バルジの戦いでは、牽引砲を装備する大隊が敵部隊に蹂躙される一方、M10 GMCを装備する大隊が待ち伏せ攻撃で戦果を挙げました。1945年1月には、ヨーロッパに展開する既存の牽引砲部隊を自走砲部隊に改編するよう、ドワイト・アイゼンハワーが要請しました。

M18 GMCを装備する第705戦車駆逐大隊はバストーニュの戦いで第101空挺師団と共に戦い、M36 GMCも初めて大規模な戦闘を経験し、その能力を実証しました。

西部戦線では、戦車駆逐大隊を戦略予備として後方に待機させず、多くの大隊が師団に配備され、前線近くに布陣しました。また、大隊がそのままの規模で運用されることは稀で、小隊または中隊規模に分割され、歩兵大隊に配備されました。

太平洋戦線

日本陸軍の限られた機甲戦力により、太平洋戦線で活動した戦車駆逐大隊の数は多くありませんでした。主な任務は歩兵支援であり、戦車駆逐車両は高い機動力を持つ火砲として扱われました。

戦車駆逐大隊の解体

終戦時点でアメリカ陸軍には63個の戦車駆逐大隊が存在しましたが、陸軍のドクトリンの変化により、1945年までにその長期的な有効性には疑問が生じつつありました。戦車駆逐大隊の主任務は敵機甲部隊の撃破でしたが、この任務は戦車が担うようになりました。

M36 GMCが出現して実戦で能力を証明しましたが、M26重戦車も90mm砲を装備しており、戦後すぐに機甲部隊の標準的な車両として用いることが出来るよう、中戦車に再設計されました。十分な対戦車能力を有する戦車の普及は、専門の対戦車部隊を持つ必要性を低下させました。

1945年に出された報告書により、戦車駆逐大隊は解体の方向に向かい、1946年までにすべての戦車駆逐大隊が解体されました。

編成

1942年6月に決定された標準編成は、本部中隊、偵察中隊、3個の戦車駆逐中隊から構成され、各中隊は37mm自走砲小隊1個と75mm自走砲小隊2個を有していました。

1942年10月には、37mm砲を装備する軽小隊は75mm砲を装備する重小隊に改編され、M10 GMCの配備が開始されると、75mm砲を装備したM3 GMCはM10によって置き換えられていきました。

1943年1月には、不要と判断された対空砲部隊の削減などが行われ、人員が削減されましたが、戦闘能力は維持されました。3月には15個大隊を牽引砲部隊に改編するよう命じられましたが、ノルマンディーおよびイタリアにおける戦闘を通じて牽引砲は自走砲に劣るという事実が判明し、牽引砲部隊は自走砲部隊に戻されることとなりました。

車両

戦車駆逐大隊が有する車両はGMC（Gun Mortor Carriage：動力付き砲運搬車）で、速度性能を最優先とした設計が行われました。初期には牽引式の37mm砲を装備していましたが、まもなく装備から外されました。75mm砲を装備するM3 GMCに加え、3/4tトラックに37mm砲を搭載したM6 GMCも開発されましたが、1942年11月以降はM3によって代替されていきました。

M10 GMCは、M4中戦車のシャーシを流用し、高初速のM1918 3インチ砲を搭載した車両で、機動性を優先するために装甲が犠牲にされました。

M18 GMCは、「ヘルキャット（Hellcat）」の愛称でも知られ、M10よりも軽量で最高速度は時速50マイルに達しましたが、装甲厚はM10に比べて半減していました。

M36 GMCは、「ジャクソン（Jackson）」の愛称でも知られ、M10の車体に90mm砲を搭載した車両で、アメリカ軍がヨーロッパに持ち込んだ車両の中で最も火力が優れた車両の1つでした。

大隊番号

1941年に師団対戦車大隊を戦車駆逐大隊に改編した際、歩兵師団所属の大隊は600番台、機甲師団所属の大隊は700番台、野戦砲兵所属の大隊は800番台の大隊番号を付与されました。牽引砲部隊の大隊番号には(T)、自走砲部隊の大隊番号には(SP)が付けられました。

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