戸倉上山田温泉

戸倉上山田温泉

戸倉上山田温泉は、長野県千曲市に位置する、千曲川のほとりに広がる温泉地です。この温泉地は、戸倉温泉、上山田温泉、新戸倉温泉という3つの温泉を総称したもので、「とぐら」の読みは濁るのが特徴です。明治時代中期に相次いで開湯し、善光寺参りの精進落としの湯として栄えました。

歴史

1888年（明治21年）に信越線が開通した際、戸倉村には駅が設けられず、隣の坂城が賑わうようになりました。危機感を抱いた戸倉村の戸長、坂井量之助は、温泉掘削を発案。1893年（明治26年）には千曲川の中洲に戸倉温泉が開湯しました。しかし、水害により度々被害を受けたため、1902年（明治35年）に右岸へ移転。その後、1916年（大正5年）には、堤防整備を経て現在の左岸へと移されました。

一方、上山田温泉は1903年（明治36年）に千曲川の分流沿いに開湯しました。これらの温泉は、戦後間もなくは傷病兵の湯治場として、そして昭和後期には企業の団体客などで年間130万人以上が訪れるほど賑わいました。最盛期には300人以上の芸妓が在籍していたことでも知られています。

泉質

泉質は、単純硫黄泉と単純硫化水素泉です。源泉の数は計52本、総湧出量は毎分8,332リットルとなっています。

温泉街の様子

千曲川の流れに沿って、約50軒のホテルや旅館が立ち並んでいます。温泉街には射的場などの遊興施設があり、湯治というよりも遊興的な雰囲気が強いのが特徴です。日帰り入浴施設も7軒あり、共同浴場をリニューアルした施設や、温泉銭湯などが利用できます。夏には千曲川河川敷で花火大会も開催されます。

恋しの湯伝説

この地には、「恋しの湯」にまつわる伝説があります。かつて、婚約者が行方不明になったお政が、千曲川で赤い小石を100個集めれば再会できるというお告げを受けました。99個の小石を集めたお政は、最後の1個を探すうちに湧き湯を発見。その温泉で手を温めたお政は、無事に100個目の小石を見つけ、婚約者との再会を果たしました。戸倉駅と温泉街を結ぶ大正橋には、この伝説にちなんで99個の赤い小石が埋め込まれています。

豊年虫

笹屋ホテルの別館「豊年虫」は、フランク・ロイド・ライトの弟子である遠藤新が設計した数寄屋造りの建物で、国の登録有形文化財に指定されています。伝統的な日本建築に洋式ホテルのデザインを取り入れた、近代観光旅館建築の先駆けです。作家の志賀直哉が滞在し、小説『豊年蟲』を執筆したことでも知られています。

温泉街の行事

温泉街では、5月に「牛に引かれて善光寺詣り」、7月には「夏祭りと大煙火大会」、8月には「千曲川納涼煙火大会」などのイベントが開催されます。

アクセス

鉄道の場合、しなの鉄道戸倉駅からタクシーで約10分です。バスの場合は、千曲市循環バス「ほっとバス」「さざなみ」「やまびこ」を利用できます。自家用車の場合は、上信越自動車道坂城インターチェンジから国道18号線を経由します。

温泉の恩人たち

戸倉上山田温泉の開祖とされるのは坂井量之助です。坂井は私財を投じて温泉を掘削し、戸倉駅の誘致にも尽力しました。しかし、度重なる水害で破産を経験しました。また、中興の祖とされるのは畑山国三郎です。畑山は千曲川の築堤や架橋、温泉施設の整備を行い、現在の温泉地の基礎を築きました。温泉街には、この二人の功績を称える石碑が建てられています。

その他

大正から昭和にかけて活躍した歌人・書家の会津八一や、画家の竹久夢二も戸倉温泉を訪れており、ゆかりの品が残されています。また、お笑いコンビの鬼越トマホークのメンバーの一人である坂井良多は、新戸倉温泉を掘り当てた坂井直治郎の曾孫で、実家は戸倉観世温泉であるという縁もあります。

戸倉上山田温泉は、歴史と文化、そして自然に恵まれた魅力的な温泉地です。

もう一度検索