川井訓導事件

川井訓導事件

川井訓導事件（かわいくんどうじけん）は、1924年に長野県の松本女子師範附属小学校の訓導であった川井清一郎が、修身の授業において国定教科書を使用しなかったことから休職に追い込まれた一連の出来事を指します。この事件は、大正自由教育運動への圧力の象徴的な例とされています。

背景

1924年5月、文部省は国定教科書以外の使用を禁止する方針を全国に伝達しました。この動きは、自由教育運動を弾圧するためのものであり、長野県でも同様の通達が行われました。地元の学校では、国定教科書の使用を強制されるようになり、教育現場における自由な考えが抑制される状況が広がっていました。

同年9月、長野県の学務当局は教育現場の監視を強化するため、大規模な視察を開始します。この視察には、文部省から派遣された樋口長市が含まれ、彼は新たな教育政策に従い、自由教育に対する厳しい視点を持っていました。

事件の発端

松本女子師範附属小学校で修身の授業を行った川井清一郎は、授業の中で旧約聖書や『十訓抄』などを教材として使用しました。9月5日に行われた視察では、川井の授業が対象となり、教科書を用いない川井の教育方針が問題視されました。

視察の際、樋口は教壇に立ち、児童に教科書の持参の有無を尋ねました。その結果、40名中5名しか教科書を持っていなかったことが明らかになり、川井は教科書を使わなかった理由を厳しく追及されたのです。

論争の展開

この事件は、自由教育に対する圧力として広く議論されました。信濃教育会を中心に、川井を擁護する声が上がり、『信濃毎日新聞』も教育当局への批判を展開しました。一方で、『信濃民報』は川井を批判する姿勢を取り、地域内でも意見が二分しました。

また、事件と同時期に他の地域でも類似の問題が発生しており、このことから自由教育運動に対する弾圧が計画的に行われていたことが示唆されます。

処分とその後

県当局は9月27日、川井に対して休職の処分を下しました。川井は10月1日に退職願を提出し、10月25日に正式に退職しました。彼の処分に連動して、他の教員にも訓告処分が下されました。

退職後、川井は妻の故郷である広島に移り住みました。彼の退職に際しては、松本女子師範附属小学校の職員や生徒たちが彼を見送る姿が見られました。併せて、川井の事件に抗議する形で、学校の主席訓導も退職しました。

その意義

川井訓導事件は、日本の教育界における自由教育の重要性と、国家による教育内容の管理がどのように行われたかを示す事例として位置づけられています。この事件によって、教科書の使用と教育内容に関する自由の重要性が再認識され、以後の教育運動にも大きな影響を与えました。自由教育運動は、その後も続く重要なテーマとなり、教育の自由が保障されることの重要性が浮き彫りになりました。

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