戸田茂睡

戸田茂睡：江戸時代前期の歌学を革新した先駆者

戸田茂睡（とだもすい、1629年7月9日-1706年5月25日）は、江戸時代前期に活躍した歌学者です。名は恭光、通称を茂右衛門といい、遺佚軒、不求橋、梨本といった様々な号を用いました。

茂睡は、徳川忠長の家臣であった渡辺忠を父に持ち、駿府城内で誕生しました。しかし、忠長の改易によって父は配流され、茂睡も幼少期を下野国黒羽で過ごしました。その後、江戸に出て伯父の旗本戸田政次の養子となり、三河国岡崎藩本多家に仕官しました。

仕官生活を終えると、浅草や本郷に隠棲し、悠々自適な生活を送りました。晩年は古典研究に没頭し、特に歌学に深い造詣を示しました。当時、公家の間で伝えられていた伝統的な歌学は、秘伝として口伝され、師の教えに盲目的に従う風潮がありました。しかし、茂睡はこれに反対し、歌学の革新を主張しました。師の教えに固執するのではなく、文献を精査し、独自の解釈に基づいて歌を解釈する新たな歌学を提唱したのです。

茂睡の革新的な歌学は、当時の歌壇に大きな影響を与えました。彼は、既存の権威に捉われず、独自の視点で古典を研究し、独自の解釈を提示しました。その自由な発想と徹底的な研究姿勢は、後の国学の発展に大きな貢献を果たしました。下河辺長流や契沖らと共に、国学の草分け的存在として、現在も高く評価されています。

茂睡の著作には、『紫の一本（ひともと）』という江戸の地誌や、『梨本集』などがあります。『梨本集』は、伝統的な堂上歌学の因習を批判的に論じた重要な著作です。他にも、『御当代記』『百人一首雑談』『僻言調』『島の跡』など多くの著作を残しました。これらの著作は、茂睡の深い学識と鋭い洞察力を示すものであり、現在も多くの研究者によって研究されています。

1706年、茂睡は生涯を閉じました。その墓所は、東京都台東区浅草にある浅草寺奥山庭苑にあります。また、足立区には、茂睡の長男伊右衛門の死を悼んで建立された歌碑が登録有形文化財として残されています。これは、関東大震災後に東陽寺境内に移転されたものです。

戸田茂睡は、単なる歌学者という枠を超え、伝統を尊重しつつも革新を志向した、江戸時代前期を代表する文化人でした。彼の業績は、後世の歌学や国学に多大な影響を与え、現在も高く評価されています。彼の自由な発想と、綿密な研究に基づいた学問への姿勢は、現代の私たちにとっても学ぶべき点が多いと言えるでしょう。

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