房州弁

房州弁（ぼうしゅうべん）とは

房州弁は、千葉県南部、主に安房地域（房州）を中心に、その周辺の上総南部（勝浦市、大多喜町、御宿町、いすみ市、富津市、君津市など）で日常的に使われている日本語の方言です。袖ケ浦市や市原市など、一部地域でも似た方言が使われています。西関東方言に分類され、語尾に「～べ」や「～ぺ」が付くのが大きな特徴です。しかし、近年では使われなくなった言葉も多く、若い世代を中心に共通語を使う人が増えています。

アクセント・文法

房州弁のアクセントは、中輪東京式アクセントに分類されます。文法は、東日本方言の要素を持ちながらも、形容詞の連用形に語幹形が使われるなど、独自の特徴があります。

房州弁の主な語彙

以下に房州弁の主な語彙をまとめました。地域によって使われ方や意味が異なる場合があるため、注意が必要です。

あ行

あおなじみ: 青あざ。
あて: 私、俺など自称。「あてら」は私たち。
あかんぺろん: 擦り剥けて皮が剥がれた様子。
あに: 何、何ですか。
あじ: 如何（単体では使わない）。
あじした？: どうした？ 例：「そん顔あじした？」（その顔どうしたの？）。
あじする？: どうする？ 例：「にしゃ、あじする？」（あなたはどうする？）。
あじょうだ？: どう？ 例：「こんおつけ、あじょうだ？」（このお味噌汁、どう？）。
あてこともねー: どうしようもない、救いようがない。例：「また寝ションベン漏らしたんか？あてこともねぇ。」（またオネショしたの？どうしようもないね）。
あんが: いやいや。例：「はー飯よそっけ？あんが、まだいらねぇ。」（もうご飯よそうか？いや、まだいいや）。
あんご: ヒキガエル、カエル。例：「あそーの、田さあんごん子がいたぁお。」（あそこに、田んぼにカエルの子がいたよ）。
あんでんねー（またはあんとんねー）: 何でもない、なんてことない。
いいあんばい: 良い天気。通りがかりの挨拶にも使う。
いそっぴ: イワガニ、イソガニなど、海岸で見られる小型のカニの総称。
いっぺえ: たくさん、いっぱい。例：「いっぺえあらあで」（たくさんありますね）、「いっぺえやんべんね」（一杯飲みましょうよ）。
うっちゃる（またはふっちゃる）: 捨てる、放っておく。例：「こん魚腐ってっかいうっちゃんべ。」（この魚腐っているから捨てよう）。
うならかす: 相手を圧倒させる、急いでやる。例：「うならかして行かないと間にあわない」（急いで行かないと間に合わない）。
うなう: 耕す。
うら: 後ろ。
うんてえ・おんて: 重い。
おせる: 捕まえる、教える、交尾する。
おいさ・おっさ: そうだよ。例：「～なの？　おいさ」。
おいねぇ・おんね: ダメ、無理。例：「そらおいねぇよ」（それは無理だよ）。
おいもんかい: ダメ、コラ！ 例：「それおいもんかい！」（それダメでしょ！）。
おぅよ: いいよ。例：「おぅよ。明日いくべよ。」（いいよ。明日行こう）。
おごいぼぅ: おこりん坊。
おっぺす（またはおっぴす）: 押す。例：「そっちまでおっぺしてってくろ。」（そっちまで押して行ってください）。
おみおつけ: 味噌汁。
おめぇらが: お宅、あなた達。例：「おめえらがじゃ、はあ田植え終わったんか？」（あなた達の家は、もう田植え終わったのか？）。
おれ: 私。「～が」が付くと「おが」となる場合もある。アクセントは「お」にある。
おんだら: 私たち。例：「おんだらはけぇんべ。」（私たちは帰ろう）。
おっける: 転ぶ。例：「田ん畔でねえごんでおっけっちまったぁよ。」（田んぼのあぜ道で転んでしまった）。
おんごしょる: 折れる。

か行

かぁかぁ: 馬鹿、阿呆。例：「成績悪いかんかぁかぁって言われんだべ。」（成績が悪いから馬鹿って言われるんだよ）。
かぁねぇ: 食べない。例：「はーかぁねぇか？」（もう食べないの？）。
かっくらす: 殴る。
かってぼ: あほか！ 例：つまらない駄洒落にツッコミを入れる時、「かってぼさぁ！」（あほか！）。
～がん～: ～の～。例：「にしらんがん畑」（あなたたちの畑）。
～かし: ～かしら。
かせる: かぶれる。
かます: はさむ、動かないように言葉や動作・くさびを立てること。
かわばち: 川魚、ナマズ目ギギ科の魚、標準和名ギバチ。
かんます: かき回す。
きばる: 痛くなる。例：「腹がきばっちってどうしようもねぇ。」（お腹が痛くてどうしようもない）。
きもいる: むかつく、腹が立つ。
くっかぐ（またはふっかぐ）: 噛む。
〜くったい: 〜ください。例：「持ってってくったい。」（持っていってください）。
くむ: 崩れる、壊れる。例：「あっちの土手が、つっくんでたぁよ。」（あっちの土手が崩れていたよ）。
～け: ～か。例：「そうけ。」（そうか）。
けぇ: 食え。例：「まっとけぇよ。」（もっと食えよ）。
けえる: 帰る。例：「おせぇかいけえんべよ。はぁけぇっかい。」（遅いから帰ろうよ。もう帰るよ）。
ケバ: 陰毛。
げっぽ: 嘔吐物。
こええ: 硬い。一部地域で疲れる。
こちょぐってぇ: くすぐったい。
こっぺ: 屁理屈。例：「こっぺ、きゅうな！」（屁理屈を言うな！）。
こばっこ: 端、隅っこ。
ぐしゃる: 情交する。「遇し合う」又は「具を合わせる」から来ていると思われる。

さ行

さーしぶりだね: 久しぶり。
～じっか: 君津・木更津周辺のみ。静岡弁の「～じゃんかぁ」に相当。～じゃないか。
じょうぼ: 門前、家の前の通路。
じょんごろ: おたまじゃくし。
すてれっぱつ（またははれっぱつ）: 「大きい」の最上級的な意味。てっぱつよりも大きい、凄く大きい。
ずんねぇ: 大きい。
せど: 裏。例：「せど山」（裏山）。
そうだいねぇ: そうだよね。
そば: 近く、近所、周辺。

た行

～だで: 静岡弁の「～じゃんかぁ」に相当。～じゃないか。
だけんが（またはだっけんが、けんが、でんが）: だけれども。
たんご: 牛糞、肥やし。一部地域で「ふませ」とも言う。
だんみゃく: 散らかっている様。例：「うちん中がだんみゃくっしょ。」（うちの中が散らかっているでしょ）。
ちいちゃっけぇ・ちっけぇ: 小さい。
ちょんぴこ: アゴハゼ属に属する魚の総称。
ちょんぽ・ちょんぽこ: ペニス。ちょんぽこは子供のペニス。
ちっこ: 乳房、おっぱい。牛の初乳を火入れ加工した「ちっこかためたーの」というバターに似た料理もある。
～っしょ: ～でしょ。例：「おめぇ昨日君津駅に来なかったっしょ。」（お前昨日君津駅に来なかったでしょ）。
てっぱつ（またはでっぱつ）: 「大きい」の比較級的な意味。結構大きい。
～でん: ～じゃん、～でしょ。例：「こらぁ、ひでーでん。」（これはヒドイじゃん！）。
～でんいぇー: ～じゃんかよー。～でん。より荒っぽい。例：「そらぁ、ひでーでんいぇー。」（それはひどいじゃんかよー！）。

な行

ないびーびー: 泣き虫、意気地なし。
にぎぃめし: おにぎり。
にし: 二人称を意味する。あなた、君。
にしら（またはにっしゃら）: にしの複数形。あなた達。
ねんぽ: 穴。例：「鼻ねんぽ」（鼻の穴）。

は行

はー: もう。例：「はーいいけ？」（もういいのか？）。
はがち: ムカデ。
はしけぇ: チクチクすること、様子。例：「はしけーよ。」（チクチクするよ）。
はなっと: 岬の先端部、かど。
はめる: 性交する
びたびた、びたんびたん: びしょびしょ（雨などで濡れた時に使う）。
ひとみず: 人見知り。
ひして: 一日。ひしてふつかかかる＝二日かかる。
ひゃっけぇ、ひゃっこい: 冷たい。
ぷっくす、ぼっこす: 壊す、破壊する。
ぷっくらす: かっくらす（殴る）よりも強い意味合いを持つ。
ほいで: それで。
ほてる: 熱くなる、顔などが熱くなる、怒る。
ほと: 女陰
ほんこん: 本気で、マジで。転じて、強く、力いっぱい。例：「ほんこんやれよ！」（本気でやれよ！）、 「そんなほんこんやいとふっくいげっちゃいどー。」（そんなに強くやるとひっくり返っちゃうぞー）。

ま行

まっこ: カヤの葉、真菰の葉。盆供に用いる。
まっと: もっと。例：「まっとけぇよ。」（もっと食えよ）。
もぢける: 壊れて外れる。

や行

やあんでく: 歩く。例：「今日天気がいいからよぉ、木更津までやんでくべや。」（今日天気が良いから木更津まで歩いて行こうよ）。
やあしんぼぅ: 食いしん坊。
やってらぁ: 始まっている。例：「宴会ははぁやってらぁ。」（宴会はもう始まっている）。
やまべ: 川魚、コイ科オイカワのこと。
やんべぇ: ～をやろう、～をしよう。例：「はや、釣りやんべぇおー」（早く釣りをしようよ）。
よいなもんじゃねぇ（またはよいじゃねぇ）: 容易なものではない。
やぶ: 歩いてゆく、行く。
やべさ: 行こうよ。
やあばっしぇ: おいで。

わ行

わら: お前たち、あなた方。「わんら」ともいう。
わん: お前、あなた。「われ」は「わん」の丁寧語。
わんだら: お前たち、あなたたち。

房州弁を使う著名人

加藤純一: 南房総市出身のYouTuber、タレント、クリエイター

脚注

房辞苑
『増間の昔話』音声付き資料

関連項目

千葉弁
* ダッペエ - 千葉県館山市のマスコットキャラクター。キャラクター名は方言が由来。

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