打掛

打掛：日本の女性の装いを彩る重ね着の着物

打掛は、日本の伝統的な女性の着物の一種です。小袖や振袖などの着物の上に重ねて着用するもので、華やかさを増す重要な役割を担います。別名「掻取」とも呼ばれ、遊郭などでは「かけ」や「しかけ」といった呼び名も用いられていました。

打掛の特徴：小袖や振袖との関係性

打掛の基本的な仕立ては、小袖や振袖と同様です。小袖は肩山を境に折り返した身頃と袖、襟、前身の袵からなる衣服で、薄綿の有無によって狭義の小袖と振袖に分類されます。打掛は、これらの着物の上に重ね着することを前提とした仕立てが特徴です。

暑い時期には、打掛を腰の周りに巻き付けて着用する「腰巻」というスタイルもありました。これは打掛が単なる重ね着の着物ではなく、状況に応じて様々な着こなし方ができる汎用性の高い衣服であったことを示しています。

打掛の歴史：室町時代から現代まで

打掛の歴史は古く、室町時代まで遡ります。この時代、武家の婚姻形態が嫁入婚へと移行し、家督相続の意味合いが強くなった婚礼において、白打掛に小袖を合わせた衣装が確立されました。これは現在の白無垢の原型と言えるでしょう。

文明11年（1479年）には、後土御門天皇が足利義政の正妻である日野富子に打掛の着用を許可する勅令を発したという記録が残っています。このことは、打掛が既に貴族階級の間でも認められた装いだったことを示唆しています。

江戸時代に入ると、上層武士の婚礼では、花嫁が白地に銀箔押しの豪華な打掛を着用するようになりました。大名の姫君など、特に身分の高い女性の場合は、数枚の小袖を重ね、緋の袴を履き、その上に打掛を重ねるという、より華やかな装束を身につけました。

江戸時代末期から明治時代にかけては、「三襲（三つ襲）」と呼ばれる、白地の振袖の上に赤地の振袖、さらに黒地の振袖あるいは打掛を重ねる着こなしも現れました。これは、重ね着によってさらに豪華さを増す、贅沢な装いだったと言えるでしょう。

第二次世界大戦後、婚礼が再び盛大になるにつれ、貸衣装が主流となりました。神前式では白無垢、披露宴では色打掛が広く用いられるようになり、現代でも打掛は日本の伝統的な婚礼衣装として重要な役割を担っています。

打掛のバリエーション：多様なデザインと素材

打掛のデザインは時代や地域、個人の好みによって多様性に富んでいます。生地には、絹や金糸、銀糸などが使用され、豪華な刺繍や染めなどが施されることもあります。白無垢のようにシンプルなものから、色鮮やかな色打掛、そして豪華な装飾が施されたものまで、様々なバリエーションが存在します。

現代では、伝統的な技法を守りながら、現代的なデザインを取り入れた打掛も制作されています。それぞれのデザインには、それぞれの物語が込められており、花嫁の個性を引き立てる重要な要素となっています。

まとめ：日本の伝統文化を象徴する装い

打掛は、日本の女性の着物の中でも特に格式高く、華やかな装いです。重ね着という独特のスタイルと、その歴史的背景、そして多様なデザインは、日本の伝統文化を象徴する存在と言えるでしょう。今後も、日本の伝統文化の継承と発展において、打掛は重要な役割を果たし続けることでしょう。

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