扶余豊璋

百済王子豊璋の生涯：白村江の戦いから流刑まで

百済最後の王、義慈王の王子であった豊璋（ふよほうしょう）。その生涯は、日本と百済、そして唐と新羅の複雑な国際関係の中にありました。史料によって「余豊璋」「扶余豊」など様々な表記が見られる彼ですが、百済復興を目指した悲劇的な英雄として知られています。

日本への渡来と白雉献上

豊璋がいつ日本へ渡来したのかは諸説あります。『日本書紀』では舒明天皇3年（631年）3月と記されていますが、『三国史記』の記述からは義慈王13年（653年）頃という説も唱えられています。一説には、義慈王13年頃に発生した「大乱」で、豊璋が倭国へ人質として送られたともされています。この「大乱」では、義慈王の弟王子翹岐とその家族、高官らが島に流されたとされ、翹岐を豊璋と同一人物とする説もあります。

日本滞在中、豊璋は決して冷遇されたわけではありませんでした。孝徳天皇の時代には、難波宮の造営中にあった白雉献上の儀式に出席しており、日本と百済の関係において重要な役割を担っていたことが窺えます。太安万侶の一族の女性を妻に迎えたという記録も残っており、ある程度の優遇を受けていたと考えられます。

百済復興への挑戦と白村江の戦い

660年、唐と新羅の連合軍によって百済が滅ぼされました。この知らせを受けた日本は、百済復興支援を決意。当時、日本の中枢にいた中大兄皇子（後の天智天皇）は、筑紫朝倉宮へと都を移し、大規模な軍事行動を開始しました。

662年、斉明天皇は豊璋を百済へと派遣します。5000人の兵と170艘の軍船を率いた豊璋は、百済の佐平・鬼室福信と合流し、百済王として擁立されました。しかし、豊璋と鬼室福信の間には次第に確執が生まれ、663年6月、豊璋は鬼室福信を殺害してしまいます。この行為により百済復興軍は内部崩壊し、唐・新羅軍の反攻を招いてしまうのです。

周留城に籠城した豊璋でしたが、援軍を待たずに城を脱出し、倭国の援軍に合流します。その後、白村江の戦いが勃発。日本と百済の連合軍は唐軍に大敗を喫し、豊璋は高句麗へと逃れました。しかし、高句麗も唐に滅ぼされ、豊璋は唐の都に連行され、嶺南地方へ流刑となりました。

豊璋と「軍王」

『万葉集』には「軍王」と称される人物が詠んだ歌が収録されています。この「軍王」を豊璋と同一人物とする説があり、もしそうだとすれば、豊璋は軍事指揮官としての能力も有していたことを示唆します。

豊璋の弟

豊璋の弟は、百済王善光（徐禪廣）と伝えられています。豊璋と共に日本へ渡来したものの、帰国せず、白村江の戦い後には、百済王族の唯一の生存者として持統天皇から「百済王」の姓を賜りました。

まとめ

豊璋の生涯は、国際情勢の激変と個人的な葛藤が複雑に絡み合った、悲劇的な物語です。百済復興という大義を掲げながらも、内紛や唐・新羅の圧倒的な軍事力によって夢は叶わず、流刑の身となりました。彼の物語は、古代東アジアの歴史を理解する上で重要な一端を示していると言えるでしょう。彼の最期については諸説あり、詳細は不明な点も多いですが、その波乱に満ちた人生は、今もなお人々の興味を引きつけてやみません。様々な史料を総合的に検討することで、豊璋という人物像をより深く理解できるようになるでしょう。

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