抑肝散

抑肝散（よくかんさん）について

抑肝散は、1556年に出版された小児医学書「保嬰撮要」に初めて記載された漢方薬です。この処方は、もともと小児の夜泣きや疳（かん）の虫といった症状に対して用いられてきました。

構成生薬

抑肝散は、以下の7つの生薬から構成されています。

白朮（びゃくじゅつ）
茯苓（ぶくりょう）
川芎（せんきゅう）
釣藤鈎（ちょうとうこう）
当帰（とうき）
柴胡（さいこ）
甘草（かんぞう）

これらの生薬が組み合わさることで、独特の薬効を発揮します。

効能と効果

抑肝散は、神経の高ぶりを鎮め、精神を安定させる効果があります。具体的には、以下のような症状に対して用いられます。

神経症
不眠症
小児の夜泣き、疳症
自律神経失調症
血の道症

近年では、アルツハイマー型認知症に伴う妄想や徘徊、暴力といったBPSD（行動・心理症状）の改善にも効果があることがわかってきました。また、ADHD（注意欠陥・多動性障害）やうつ病に対する効果も研究されています。

作用機序

抑肝散は、伝統的には「平肝熄風（へいかんそくふう）」と「気血双補（きけつそうほ）」の作用を持つと考えられています。これは、肝の機能を整え、体内の気の流れと血の流れを補うことで、心身のバランスを回復させるという意味です。現代医学的には、脳内の神経伝達物質であるグルタミン酸の調整や、セロトニン受容体への作用が関与していることが研究で明らかになっています。

臨床試験

認知症患者を対象とした臨床試験では、抑肝散を投与したグループにおいて、NPIスコア（認知症の精神症状を評価する指標）や幻覚、不安興奮などの症状が有意に改善したことが報告されています。また、レビー小体型認知症に特有の幻視に対しても、抑肝散が有効であることが示唆されています。

副作用と禁忌

抑肝散は一般的に安全な漢方薬とされていますが、消化器が非常に弱い患者には慎重に投与する必要があります。また、甘草が含まれているため、偽性アルドステロン症のリスクがあります。その他、漢方薬はカリウムを排泄させやすく、低カリウム血症などの電解質異常を引き起こす可能性があるため、定期的な血液検査が必要です。筋肉の痙攣などの副作用が出ることがあります。

関連処方

抑肝散をベースにした関連処方として、以下のものがあります。

抑肝散加陳皮半夏: 抑肝散に陳皮と半夏を加えたもので、痰を取り除く作用が強化されています。慢性的な症状や成人向けに用いられます。
抑肝散加芍薬黄連: クラシエ薬品から販売されている処方です。

その他

「保嬰撮要」には、この方剤について「母児同服」という記述があり、これは、当時の医学に家族療法的な視点があったことを示唆しています。
全薬工業の市販薬「アロパノール」、薬王製薬の「スリーピンα」は、抑肝散を配合した製品です。

脚注

漢方薬を使用する際は、医師や薬剤師に相談し、適切なアドバイスを受けるようにしましょう。

関連項目

易怒性

外部リンク

医療関係者向けサイト漢方スクエア「抑肝散関連コーナー」
抑肝散 - ツムラ
* 抑肝散加陳皮半夏 - クラシエホールディングス

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