折伏大行進

「折伏大行進」とは、1951年（昭和26年）に創価学会の第2代会長に就任した戸田城聖が提唱した、自身が存命中に75万世帯に日蓮正宗への入信勧誘（折伏）を達成するという目標を掲げた大規模な宗教勧誘運動です。

歴史的背景

1951年5月3日、戸田城聖が創価学会の第2代会長に就任した際、彼は就任の挨拶の中で、当時の会員数から見て極めて野心的な「75万世帯」という拡大目標を打ち出しました。当時の創価学会は、会員数がおよそ3,000世帯に過ぎず、日蓮正宗内でもまだ小さな存在でした。そのため、この目標を聞いた当時の幹部たちの多くは、「途方もない数字だ」「達成できるとは到底信じられない」といった感想を抱いたと伝えられています。

この前例のない大規模な布教活動を推進するため、主な教材として1950年に発行された『折伏教典』が使用されました。さらに、既存の月刊理論誌『大白蓮華』や、戸田会長就任直前の4月20日に創刊されたばかりの機関紙『聖教新聞』が、布教の理論的な支柱や情報伝達の媒体として活用されました。当時の折伏の対象となった人々や、実際に入会した人々には、経済的に困窮している層、病気を抱えている人々、あるいは地方から都市部へ移住してきたばかりの若者などが多く見られたとされています。

活動の手法と問題点

折伏大行進が展開される中で、入会しようとする家庭に他宗派の仏壇や神棚が置かれている場合、それらを焼却するなどの行為が行われました。これは「謗法払い（ほうぼうばらい）」と呼ばれましたが、創価学会の外部からは奇異に映ることが少なくありませんでした。また、勧誘に際しては、時には多数の学会員が対象者を取り囲むといった強引な手法が用いられることもありました。特に、長崎県では、このような入信強要が原因で、19歳の少年が自殺に至るという痛ましい事件も発生しています。

目標達成と組織の拡大

こうした様々な活動の結果、創価学会は驚異的な勢いで会員数を増加させていきました。そして、1957年（昭和32年）12月に開催された本部幹部会において、戸田会長は自らが掲げた75万世帯の目標が達成されたことを発表しました。この目標達成は、当時の日本社会に大きなインパクトを与えました。

戸田会長の死去後、第3代会長に就任した池田大作は、さらに創価学会の勢力拡大を推し進めました。池田会長は、戸田会長の七回忌にあたる1964年（昭和39年）までに300万世帯の達成を新たな目標として掲げ、精力的に活動を展開しました。その結果、1961年（昭和36年）には既に200万世帯を達成し、公明党が結党される直前の1964年には500万世帯に到達するなど、加速度的な拡大を続けました。そして、1970年（昭和45年）には、会員世帯数が750万を数えるまでになりました。

社会的影響

折伏大行進によって創価学会が獲得した強固な組織力は、日本の社会と政治に大きな影響を与えました。会員数の増加と組織の結束力に注目した地方や国会議員の支援団体、さらには国鉄労働組合（国労）や、夕張・三池などの炭鉱労働組合（炭労）、教職員組合といった様々な労働組合などから、創価学会に対する選挙協力の依頼が寄せられるようになりました。こうした状況を背景に、戸田会長は、全国の会員の意見を政治の場に反映させるための組織が必要であると考えました。そのため、1954年（昭和29年）、創価学会内部に後の公明党の母体となる「文化部」を設置し、数名の部員を任命するなど、来るべき国政選挙への準備を着々と進めたのです。

折伏大行進は、創価学会が戦後の日本社会において巨大な宗教団体、そして政治的影響力を持つ組織へと変貌を遂げる上で、決定的な役割を果たした歴史的な運動と言えます。一方で、その過程で用いられた手法については、社会的に大きな議論を呼ぶこととなりました。

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