抜打座談会事件

抜打座談会事件

抜打座談会事件（ぬきうちざだんかいじけん）は、日本の推理小説界において、本格派と文学派の対立を鮮明にした出来事です。この事件は、1950年4月号の雑誌『新青年』に掲載された「探偵作家抜打座談会」が引き金となり、その後の文学界に多大な影響を与えました。

経緯

1950年の新年、幹事役として招集された大坪砂男と宮野村子は、東京都新宿区の博友社にて会合を開きました。この座談会には、木々高太郎、大坪砂男、永瀬三吾、宮野村子、岡田鯱彦、氷川瓏、本間田麻誉といった著名な作家たちが参加しましたが、ほとんどが自らを文学派と位置づける中、ただ一人岡田鯱彦だけが本格派としての立場を維持していました。

その後、会合が小料理屋「喜らく」に移され、そこへ『新青年』編集長の高森栄次が現れ、出席者たちに速記を行い本誌に掲載する旨を告げました。会は「抜打ち座談会」という形で進行し、出席者たちは自身の文学観に基づいて本格派の探偵作家たちを厳しく批判しました。中でも大坪は、低級な探偵小説が売れる理由は経済的な理由にあると強調し、取引先である雑誌の売上を持ち出しました。

反響

この座談会を読んだ江戸川乱歩は、早速『宝石』の編集部に反応し、同誌の1950年5月号に『「抜打座談会」を評す』という反論を発表しました。彼自身の反論は穏やかでしたが、氷川の回想によると乱歩は実際に座談会の内容に対して感情を害していたそうです。また、横溝正史や高木彬光も強く反発し、特に高木は大坪の発言に憤慨し、発言の報復として大坪の作品が掲載されている雑誌を焚きつけに使っていたとのことです。

本格派を支援していた『宝石』の社長、岩谷満は、この座談会を自身の雑誌に対する挑戦と捉え、出席作家の作品を『宝石』でボイコットする意向を示しました。この文学派と本格派の対立は、文学界の熱を帯びた論争を引き起こし、更に大きな影響を及ぼすことになります。

しかし、もともと売上が芳しくなかった『新青年』は、この騒動の後も赤字から脱出できず、1950年7月号をもって休刊を迎えることとなりました。この出来事により文学派は萎縮し、沈黙を余儀なくされ、結果的に事態は沈静化しました。やがて、この座談会で論じられた新しい推理小説の可能性は、松本清張の登場によって一気に実現を見たとされています。

関連項目

• - 覆面座談会事件：抜打座談会事件のSF版
• - 魔童子論争

作家たちの熱い議論は、日本の推理小説の未来に深い影響を与え、その後の文学の進展を促す契機となりました。この事件の背景には、文学と経済の相互関係や、文学界における思想的な対立が潜んでおり、単なる論争を超えた意味を持っています。

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