大坪砂男

大坪砂男：波乱に満ちた生涯と独特の探偵小説

大坪砂男（おおつぼ　すなお、1904年2月1日 - 1965年1月12日）は、戦後日本の探偵小説界に独特の色を添えた作家である。本名は和田六郎。その名は、E・T・A・ホフマンの『砂男』に由来する。作家としての活動期間は比較的短く、晩年は経済的な苦境に直面するなど、波瀾万丈の人生を送った。

名家の出身と多様な経歴

大坪は、日本における鉱物学の権威であった和田維四郎を父に持ち、東京で生まれた。東京薬学専門学校（現在の東京薬科大学）卒業後、谷崎潤一郎の書生として兵庫県で生活した時期があり、この間、谷崎の妻との間で複雑な関係が生じたといわれている。その後は、陶工や株取引など様々な職を経験し、警視庁鑑識課員として8年間勤務した経歴も持つ。この間、有名な玉ノ井バラバラ事件を担当したとされる。さらに、画商として活動した時期もあるが、贋作販売事件に関わって廃業に追い込まれている。

探偵小説家としての開花と「戦後派五人男」

戦後、預金封鎖の混乱期に佐藤春夫の弟子となり、作家への道を歩み始める。1948年、雑誌『宝石』に発表した「天狗」が代表作となり、この作品で独特の飛躍に富んだ文体と、人間の心理を深くえぐる描写で注目を集める。山田風太郎、高木彬光、島田一男、香山滋と共に、江戸川乱歩から「探偵小説界の戦後派五人男」と称賛された。1950年には「私刑（リンチ）」で探偵作家クラブ賞（現在の日本推理作家協会賞）短篇賞を受賞するなど、作家としての地位を確立していった。しかし、日本探偵作家クラブ幹事長時代には運営資金の不正使用問題で退会するなど、トラブルにも巻き込まれている。

晩年とその後

大坪は寡作であり、経済的な苦労もあったという。晩年には柴田錬三郎のアイデアマンとして活動していた時期もあった。1962年発表の「天来の着想」が最後の作品となった。1965年、肝硬変と胃癌のため死去。享年60歳。

作品と評価

大坪の作品はすべて短編小説であり、独特の心理描写と、奇想的なアイデア、そして時に社会的な問題提起を織り交ぜた作風が特徴である。彼の作品は、単なる推理小説にとどまらず、人間の深層心理や社会の闇を鋭くえぐる、文学的な深みを持つものが多い。そのため、現在でも多くの愛読者から高い評価を得ている。

家族・親族

大坪の息子は俳優、声優、劇作家の和田周、孫は小説家、脚本家の虚淵玄である。華麗な経歴を持つ父と、現代においても活躍を続ける息子、孫の存在も、大坪砂男という作家の存在をより際立たせている。

まとめ

大坪砂男は、名家の出身でありながら、様々な職を転々とし、複雑な人生を送った作家であった。その経験が、彼の作品に深みと独特の色合いを与えていると言えるだろう。彼の作品は、現在も読まれ続け、戦後日本の探偵小説史に重要な足跡を残している。彼の多彩な経歴と、鋭い心理描写、奇想的なアイデアに満ちた作品群は、これからも多くの読者を魅了し続けるだろう。

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