持久戦

持久戦：敵の撃滅よりも自軍の維持を優先する戦闘戦略

持久戦とは、敵軍の戦闘力を完全に破壊することを目的とするのではなく、自軍の戦力を維持し、存続させることを最優先とする作戦や戦闘形態です。これは、敵と正面からぶつかり合う「決戦」と対照的な概念であり、しばしば劣勢な立場にある勢力が、優勢な勢力に対抗するために選択する戦略です。

持久戦の特性と陸上作戦における役割

持久戦は、陸上作戦において重要な形態の一つです。その本質は、決戦を回避、あるいは延期することで、自軍の戦闘力を維持することにあります。決戦は、多くの場合、持久戦よりも大きな目標、最終目標を達成するための手段、あるいは過程として位置付けられます。そのため、持久戦は、別個の戦線で展開される作戦を支援したり、時間的な猶予を得るために用いられたりする場合も少なくありません。

攻撃側と防御側の力関係において、防御側は城や要塞、塹壕などの防御施設を活用できるため、攻撃側よりも有利な立場に立つことが多いとされています。そのため、攻撃側は防御側の3倍の兵力が必要だとか、城攻めは下策だと言われるのは、この防御の有利性を反映しています。

劣勢な側は、防御に徹することで時間を稼ぎ、援軍の到着を待ったり、敵の疲労や士気の低下を待つなどします。また、少数精鋭の部隊でより多くの敵部隊を足止めし、敵の行動を制限するといった戦術も持久戦では用いられます。

しかし、持久戦は長期化すると、水、食糧、武器弾薬などの補給が継続的に必要となり、兵士の士気も低下するリスクを伴います。そのため、戦力的に優勢な側であっても、自軍の補給能力が高く、敵の補給能力が低い場合は、戦力の消耗を避けるために持久戦に持ち込むという戦略が選択されることがあります。例えば、城攻めの際に、城壁を強引に突破するのではなく、周囲を包囲して補給路を遮断し、敵の降伏を待つといった戦法がこれに当たります。

将棋における持久戦

将棋においても、持久戦という概念は存在します。これは、自陣の守りを堅固に構築してから攻勢に出る戦法です。守りを固めることで安定性を高めますが、同時に、相手側も守りを固める可能性が高いため、仕掛けのタイミングが遅れ、長手数の将棋になりがちです。これに対して、「急戦」は、最小限の囲いで攻撃を優先する戦法です。

ゲリラ戦との関連性

ゲリラ戦は、その長期にわたる戦闘形態から、しばしば持久戦と関連付けて議論されます。毛沢東の『遊撃戦論』では、根拠地を基盤としたゲリラ戦は、戦略的持久戦の一過程として位置付けられています。

持久戦に関する文献と指導者

持久戦、あるいはゲリラ戦の指導者たちは、しばしば自らの経験や戦術に関する著作を残しています。中でも有名なのは、毛沢東の『持久戦論』『遊撃戦論』やチェ・ゲバラの『ゲリラ戦争』です。他に、沖縄戦で知られる八原博通なども、持久戦に関する知見を残しています。

主要な持久戦指導者

毛沢東（抗日戦争）
チェ・ゲバラ
八原博通（沖縄戦）

これらの指導者たちの経験や戦略は、現代においても軍事戦略を考える上で重要な参考資料となっています。持久戦は、単純な戦闘形態だけでなく、政治的、経済的、心理的な要素も複雑に絡み合った、多角的な戦略であると言えるでしょう。

参考文献

防衛大学校・防衛学研究会編　『軍事学入門』　かや書房

関連項目

陸戦
戦術
作戦
水際作戦
縦深防御
ゲリラ戦
硫黄島の戦い

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