挂甲

掛甲：古代日本の鎧とその謎

掛甲(けいこう)は、古代日本の奈良時代と平安時代に用いられた鎧の一種です。小札と呼ばれる小さな鉄や革の板を紐で繋ぎ合わせた小札甲であり、特に「裲襠式(りょうとうしき)」と呼ばれる形態を指すと考えられています。

古墳時代との関係

考古学では、古墳時代に出土する小札甲も掛甲と呼ばれてきましたが、近年ではこの呼称に疑問の声が上がっています。古墳時代の小札甲は、奈良・平安時代の文献に記される掛甲とは異なる可能性が高いためです。

史料からの考察

奈良時代の史料『東大寺献物帳』には「掛甲」の記述があり、平安時代の『延喜式』にも同様の記述が見られます。これらの史料から、掛甲がどのような形状であったかを推測する試みがなされています。しかし、実物がほとんど残っていないため、断定は難しいのが現状です。

考古学的研究

古墳時代からの甲冑研究は明治時代から始まり、当初は『東大寺献物帳』などを参考に、板状の甲を「短甲」、小札甲を「掛甲」と分類していました。しかし、末永雅雄らによる研究で、古墳時代の小札甲は「裲襠式」と「胴丸式」の2種類に分類できることが明らかになりました。

裲襠式は、左右2枚の甲を肩で繋いで着用するタイプです。一方、胴丸式は、小札を胴に巻き付けるように着用するタイプで、兜などの付属品が付いていることが多いです。これらの構造は、同時代の板状の甲とは大きく異なり、大陸からの技術的影響が強いと推測されています。

用語の混乱

古墳時代の小札甲を「掛甲」と呼ぶようになったのは、奈良・平安時代の文献を参考に便宜的に当てはめた結果です。しかし、文献に記される「掛甲」は、考古学でいう「裲襠式」の小札甲を指していると考えられており、用語の混乱が生じています。

近年では、古墳時代の小札甲を「札甲」または「小札甲」、板状の甲を「板甲」と呼ぶべきという意見も出てきており、研究者間で議論が続いています。

奈良・平安時代の掛甲

奈良・平安時代の掛甲は、「うちかけのよろい」や「かけよろい」と呼ばれていました。文献研究から、裲襠式であったと推定されています。また、8世紀の小札は、古墳時代やそれ以降の小札に比べて細長くなっていたことが分かっています。

平安時代の甲冑

平安時代には、『延喜式』に「短甲」と「掛甲」の記述があり、さらに「大鎧」や「胴丸」といった新しいタイプの甲冑も登場します。これらの甲冑の分類や関係性については、様々な説が提示されています。例えば、大鎧は掛甲、胴丸は短甲から派生したという説があります。

その他

『日本書紀』には、鎧を重ね着して戦闘を行う記述があり、小札甲が重ね着可能であることを示しています。また、『延喜式』によると、掛甲は、大鎧に比べて小札の枚数が少なく、軽量で扱いやすかったと考えられます。

樺太アイヌの鎧は、日本の掛甲の製法を取り入れた可能性が示唆されています。

このように、掛甲は、古代日本の軍事技術や文化を理解する上で重要な要素であり、その実態解明は今後の研究課題となっています。

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