指向性

指向性とは

指向性（しこうせい、directivity）とは、音、電波、光などのエネルギーが空間中に出力される際に、その強度が方向によって異なる性質を指します。また、空間中からこれらのエネルギーを検出する際にも、方向によって感度が異なる性質として現れます。例えば、特定の方向に強い音を出すスピーカーや、特定の方向からの電波を捉えやすいアンテナなどは、指向性を持っていると言えます。

電気信号に変換すると、指向性は方向による利得の違いとして観測されます。つまり、特定の方向からの信号は強く、別の方向からの信号は弱く受信される、といった現象が見られます。

指向性の指標

指向性を定量的に表すために、様々な指標が用いられます。これらの指標は、それぞれ得意とする表現範囲や特性が異なります。以下に代表的な指標とその特徴を解説します。

半値幅（半値半幅 HWHM）

半値幅（はんちはば、Half Width at Half Maximum：HWHM）は、指向性の中心となる最も強度の高い方向から、強度が半分になる角度を表す指標です。半値角とも呼ばれます。この指標は、指向性の広がり具合を示すのに適しています。半値幅が小さいほど指向性が鋭いと言えます。ただし、半値幅は、強度が2倍以上変化しないような指向性を表現することはできません。また、半値幅を正確に測定するには、角度ごとの強度を連続的に計測し、指向性図を作成する必要があります。

前方後方比 (F/B)

前方後方比（ぜんぽうこうほうひ、Front-to-Back ratio：F/B）は、最も強度の高い前方方向の強度と、後方方向の強度の比を表す指標です。この指標は、前後の強度差を簡単に知ることができます。しかし、後方方向の強度がほぼゼロとなるような鋭い指向性を表すことは苦手です。また、双極性や四極性のように、後方にも強い強度を持つ場合、その情報を正しく表現することができません。

前方側方比 (F/S)

前方側方比（ぜんぽうそくほうひ、Front-to-Side ratio：F/S）は、最も強度の高い前方方向の強度と、側方方向の強度の比を表す指標です。この指標は、前方と側方の強度差を簡単に知ることができます。しかし、側方方向の強度がほぼゼロとなるような鋭い指向性を表すことは苦手です。また、側方方向にも複数の強度ピークを持つ場合、その情報を正しく表現することができません。

指標の基準

これらの指標の基準となる強度は、エネルギーです。エネルギーの平方根である変位や電圧を計測した場合、半値幅における振幅は約71%となります。

異方性

指向性が方向によって異なる場合（例えば、上下方向と左右方向で指向性が異なる場合）、半値幅やF/Sは、それぞれ垂直方向の値と水平方向の値という2つの値で表されます。一方、F/Bは異方性に関わらず1つの値で表されますが、異方性を表現することはできません。

指向性の例

指向性は様々な分野で利用されています。以下に、その例をいくつか紹介します。

アンテナの指向性: アンテナは特定の方向からの電波を受信したり、特定の方向に電波を送信したりするために、指向性を利用しています。
マイクロフォンの指向性: マイクロフォンは、特定の方向からの音を拾ったり、特定の方向からの音を遮断したりするために、指向性を利用しています。
自衛隊の指向性散弾: 特定の方向に散弾を発射するために、指向性を持たせた散弾が利用されています。
指向性エネルギー兵器: 特定の方向にエネルギーを集中させて照射する兵器には、指向性が利用されています。

これらの例からもわかるように、指向性は様々な場面で重要な役割を果たしており、その特性を理解することは、様々な技術や製品を開発・利用する上で非常に重要です。

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