排煙器

排煙器：戦車兵の安全を守る革新的な装置

排煙器（はいえんき、Bore evacuator）は、戦車などの装甲戦闘車両の備砲である砲身に装着される装置です。その主な役割は、砲弾の発射時に発生する有毒な燃焼ガスが、砲尾を開放した際に戦闘室内に逆流するのを防ぐことです。特に大口径の戦車砲や自走砲で広く採用されています。

背景：車内の空気環境改善の必要性

排煙器がない場合、発砲後の燃焼ガスが車内に充満し、乗員に不快感や健康被害をもたらし、戦闘への集中を妨げる可能性があります。特に重量のある砲弾を連続して装填する装填手は、硝煙を吸い込むことで昏倒する危険性もありました。

第二次世界大戦後しばらくの間は、砲塔上部にベンチレーターを設置し、車内に流入した硝煙を強制的に排出する方法が用いられていました。しかし、冷戦時代に入り、核戦争の脅威が高まると、装甲戦闘車両にもNBC（核・生物・化学）兵器に対する防御能力が求められるようになり、ベンチレーターは廃止されていきました。このような背景から、砲身内部からの硝煙流入を防ぐ排煙器が開発、導入されることになったのです。

排煙器のメカニズム

排煙器は、砲弾の発射時に発生する高温・高圧のガスを一時的に蓄える構造を持っています。通常時は排煙器と砲身内は外気とほぼ同じ環境です。

砲弾が砲身内を通過する際、砲身に設けられた小さな穴から燃焼ガスの一部が排煙器内に取り込まれます。排煙器は、砲弾が砲口から完全に離れるまで高圧ガスを保持し、砲身内の圧力が低下した段階でガスを砲口方向へ放出します。この高圧ガスの流れが、砲身内に残った燃焼ガスを牽引して砲口から排出します。これにより、砲尾を開放しても、車内の空気が砲口方向へ引き込まれるため、燃焼ガスの逆流を防ぐことができるのです。

排煙器が適切に設計、メンテナンスされていれば、不完全燃焼ガスが車内に逆流して引火したり、乗員がガス中毒に陥るリスクを大幅に低減できます。現在では、多くの主力戦車に標準装備されています。

世界初の排煙器搭載砲

世界で初めて排煙器を搭載した砲は、イギリスのセンチュリオン戦車に搭載されたロイヤル・オードナンス L7 52口径105mmライフル砲です。

まとめ

排煙器は、戦車などの装甲戦闘車両の乗員を燃焼ガスから守り、安全な戦闘環境を維持するための重要な装置です。その導入は、戦場における車両の生存性と乗員の戦闘能力向上に大きく貢献しています。

参考文献

* Perrett, Bryan (1987). Soviet Armour Since 1945. London: Blandford Press. ISBN 0-7137-1735-1

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