環状集落

環状集落とは

環状集落は、縄文時代早期末から前期初頭にかけて成立し、中期から後期にかけて東日本を中心に発達した集落形態です。中央の広場を囲むように、墓域（土壙墓群）と居住域（竪穴建物群や掘立柱建物群）が同心円状に配置されるのが特徴です。千葉県の加曽利貝塚や秋田県の大湯環状列石などが代表的な遺跡として知られています。

概要

環状集落は、縄文時代中期に最も隆盛した定型的な集落形態です。台地上の平坦地やその縁辺部に形成されることが多く、関東地方および中部地方で多く見られます。

環状集落の存在は戦前から知られていましたが、戦後の発掘調査によって、縄文時代の社会構造を解明する上で重要な遺跡であることが認識されるようになりました。特に、和島誠一による集落論や南堀貝塚の発掘調査が、その評価の原点となりました。

和島は、住居の環状配置が、血縁集団同士が広場を中心に結束することで、より大規模で強固な共同体へと発展していったことの表れであると考えました。そして、この血縁集団同士の紐帯関係に基づく氏族共同体の結成が、縄文時代社会の本質であると考察しました。

歴史と変遷

関東地方南西部では、前期中葉に縄文海進によって水産資源が豊富になり人口が増加し、多くの環状集落が出現しました。しかし、前期末には海退などの環境変化によって集落数が激減します。中期中葉には再び集落数が増加し、大規模な環状集落が最盛期を迎えますが、中期末には再び集落減少が起こります。

その後、後期前葉から中葉にかけて、核家屋と呼ばれる特殊な建物が出現し、社会的な変革を伴いながら集落が復活しますが、縄文時代晩期には解体していきます。

構造

環状集落には、「重帯構造」と「分節構造」と呼ばれる構造があることが明らかになっています。

重帯構造

中央の広場には土坑墓群（墓地）が作られ、その周囲を掘立柱建物群（倉庫など）が取り囲み、さらにその周囲に竪穴建物群（居住域）が配置されます。また、貯蔵穴群や、祭祀行為などを伴う「廃棄帯」が伴う場合もあります。居住域の直径は、70メートルから150メートル以上になるものもあります。重帯構造とその配置は厳格に規制されており、数百年間にわたって同じ範囲内に墓域や居住域が継続して営まれる例もあります。

分節構造

重帯構造によって形成された中央広場の墓群や周囲の環状居住域には、環状配置の内部で遺構分布に偏りがあり、複数の区分に分割できる場合があります。これを「分節構造」といいます。墓群の分節構造は、死者の埋葬位置に厳格な取り決めが存在することを示しており、これらの分節構造が環状集落内で血縁的に同一の出自を持つ小集団ごとに形成された可能性が指摘されています。

双環状集落

ほぼ同時代に2つの環状集落が隣接して形成されたり、時期を異にしつつ隣接して形成されたりして、両集落遺跡が「8」の字状に検出される事例があり、双環状集落と呼ばれています。

貝塚形成との関係

環状集落内の廃絶した竪穴建物跡などに貝殻や土器などが捨てられ続けることで「廃棄帯」が生じ、これらが堆積して貝塚を形成します。現在発見される貝塚が環状のほか、馬蹄形や「い」の字形となる例があるのは、このためです。

環状列石との関係

大湯環状列石に代表される縄文時代後期の環状列石（ストーンサークル）も、発掘調査により中心域の石組遺構下に墓群があり、その周囲に竪穴建物群や掘立柱建物群が環状に存在することから、中期の環状集落を起源として成立したと考えられています。

谷口康浩は、縄文中期段階では環状集落構造の一部であった中央広場の集団墓が、後期以降、列石という視覚的な誇張を伴って巨大な祭祀モニュメントとして拡大していった背景に、大規模な土木工事や祭祀挙行、およびそれを運営する「指導力」ないし「威信」の存在を想定し、社会階層化を伴う縄文時代社会の構造変化があったのではないかと指摘しています。

各地の環状集落

西海渕遺跡 - 山形県村山市
西田遺跡 - 岩手県紫波郡紫波町
デーノタメ遺跡 - 埼玉県北本市
水子貝塚 - 埼玉県富士見市
行司免遺跡 - 埼玉県比企郡嵐山町
下野谷遺跡 - 東京都西東京市
堀之内貝塚 - 千葉県市川市
姥山貝塚 - 千葉県市川市
曽谷貝塚 - 千葉県市川市
加曾利貝塚 - 千葉県千葉市若葉区
三の丸遺跡 - 神奈川県横浜市都筑区
小丸遺跡 - 神奈川県横浜市都筑区
北川貝塚 - 神奈川県横浜市都筑区
神隠丸山遺跡 - 神奈川県横浜市都筑区
南堀貝塚 - 神奈川県横浜市都筑区
泉警察遺跡 - 神奈川県横浜市泉区

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