接着結合

接着結合（せっちゃくけつごう、英: adherens junction）は、多細胞生物の細胞間および細胞と細胞外基質との間の接着に関わる、主要な細胞結合装置です。別名アドヘレンス・ジャンクション、特に上皮組織では接着帯（Zonula adherens）とも呼ばれます。細胞結合の分類では固定結合（anchoring junction）に位置づけられ、細胞膜の裏打ちの細胞骨格としてアクチンフィラメントを利用する点が特徴です。これは、同じ固定結合であるデスモソームやヘミデスモソームが中間径フィラメントを用いるのとは異なります。接着結合は細胞接着全般の代表的な構造と見なされています。

機能と形態

接着結合の主な役割は、細胞接着部位を細胞膜裏打ちのアクチン骨格が強固に支えることで、組織に加わる機械的な力（引っ張りや圧力）に対する耐性を与え、細胞や組織の物理的な安定性を保つことにあります。

アクチンフィラメントの動的な性質（重合・脱重合、収縮性）により、接着結合は細胞運動、形態変化、細胞内シグナル伝達といった動的なプロセスにも関与します。接着と解離の制御も比較的容易であり、細胞の多様な活動を支えます。

形態や局在は細胞種によって異なります。上皮細胞では、細胞の側面に沿って密着結合のすぐ下方（基底側）に位置し、細胞を帯状に一周する連続構造（接着帯）を形成します。この構造の細胞膜裏側には強固なアクチン束が存在し、上皮シートの機械的強度に貢献するとともに、密着結合の形成にも不可欠です。動物発生における上皮シートの形態形成（神経管形成など）にも、接着帯内のアクチン束の収縮が重要な役割を果たします。

上皮細胞以外では、接着結合は帯状ではなく小さな斑点状で存在します。細胞-細胞外基質接着では、同様にアクチン骨格を利用する焦点接着（Focal adhesion）が形成されます。

分子構成と疾患関連

接着結合は、細胞膜を貫通する細胞接着分子、細胞接着分子とアクチン骨格を繋ぐ細胞膜裏打ちタンパク質、およびシグナル伝達関連分子から構成されます。

細胞-細胞間接着の主な細胞接着分子はカドヘリンファミリーや免疫グロブリンスーパーファミリー（例：NCAM）です。細胞-細胞外基質接着（焦点接着）ではインテグリンファミリーが中心です。

細胞膜裏打ちタンパク質としては、カテニンファミリー（α, βなど）、ビンキュリン、タリン、α-アクチニンなどが知られ、アクチンフィラメントと連携して接着構造を支えます。接着部位にはGタンパク質共役型受容体（GPCR）やチロシンキナーゼなどのシグナル伝達分子も集まります。

接着結合の異常は、細胞接着力の低下を引き起こし、がんの悪性化（浸潤・転移）や炎症など様々な病態と関連します。そのため、関連分子は診断・治療のターゲットとして研究されています。

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