摺師

摺師：錦絵を彩る繊細な技

江戸時代の浮世絵、特に多色摺りの錦絵は、絵師、彫師、摺師といった様々な職人の卓越した技によって生み出されました。本稿では、その中でも重要な役割を担った摺師の仕事について詳しく見ていきます。

絵師と彫師からのバトン、摺師の技

絵師が描いた下絵と指示に基づき、彫師が丹念に彫り上げた版木は、摺師へと渡されます。摺師の仕事は、この版木を用いて、一枚の絵を完成させるという、まさに最後の仕上げを担う重要な役割です。

まず、輪郭線などを彫り込んだ主版から摺り始めます。明治時代後半からは刷毛の代わりにブラシが主流となりましたが、摺師は刷毛またはブラシを使って墨や色料を版木に丁寧に染み込ませます。これは版木表面に色料を乗せるのではなく、版木に色料を浸透させるような作業です。

次に、適度に湿らせた紙を版木に置き、紙がずれないよう、あらかじめ版木に付けられた「見当」と呼ばれる目印に紙の角と下端を合わせます。そして、馬連と呼ばれる道具を用いて、紙に版木の色料を丁寧に摺り込んでいきます。

馬連は摺師が手作りしたもので、竹皮を繋ぎ合わせて作った芯、渋紙を重ねて漆で固めた当皮あてかわ、そしてそれを包む竹皮の包み皮から構成されています。この馬連を使い、摺師は適度な力を加えながら、版木に含まれた色料を紙に吸い取らせるように摺り出していきます。

多彩な技法と繊細な作業

多色摺りの錦絵では、色数に応じた複数の版木が使用されます。面積の狭い色は、他の色版と兼用される場合もあります。この過程では、版を正確に位置合わせすることが非常に重要になります。

摺師の技は、単に色を摺り重ねるだけではありません。色料を用いずに馬連で摺るだけで、版木の凹凸を生かした表現である「空摺り」や、版木を湿らせてから色料を摺り込み、にじませる「ぼかし」、さらに雲母を蒔く「雲母摺り」といった高度な技法も駆使します。

これらの技法を巧みに用いることで、錦絵は奥行きと繊細さを増し、より豊かな表現が可能になります。

完成と流通

全ての色版が摺り終わると、版元と絵師による検品が行われます。問題がなければ、地本問屋や絵草紙屋へと卸され、世に出ることになります。地本問屋は版行も請け負いますが、絵草紙屋は販売専門です。摺師の仕事は、こうして多くの人々の目に触れる錦絵という芸術作品を完成させるという、まさに最後の工程を担う重要な役割なのです。

摺師の技術と錦絵の美

摺師の技術は、錦絵の美しさに大きく貢献しています。一枚の錦絵が完成するまでには、絵師、彫師、そして摺師といった多くの職人の技と努力が積み重ねられています。それぞれの職人の連携と高度な技術によって生み出された錦絵は、まさに日本の伝統文化の粋と言えるでしょう。彼らの技術と努力によって、私たちは今もなお、江戸時代の美しい錦絵を鑑賞することができるのです。

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