改⑤計画

改⑤計画：太平洋戦争下の海軍軍備と現実の乖離

ミッドウェー海戦の惨敗を機に、大日本帝国海軍は抜本的な軍備計画の修正を余儀なくされました。その結果として策定されたのが、改⑤計画です。本計画は、昭和16年度に計画された⑤計画を改定したもので、太平洋戦争の激化と戦況の悪化に対応するべく、海軍の戦略・戦術における大きな転換を示すものです。

計画の背景：ミッドウェー海戦と航空戦力の重要性

ミッドウェー海戦における痛烈な敗北は、日本海軍にとって大きな衝撃でした。主力航空母艦4隻を失ったことは、海軍力の著しい低下を意味し、航空戦力の重要性を改めて認識させる結果となりました。この敗北を踏まえ、海軍は航空母艦の増強を最優先課題と位置づけ、既存の軍備計画の抜本的見直しに着手しました。その結果が、⑤計画の改定、すなわち改⑤計画の策定です。

計画内容：航空母艦優先と小型艦艇の増強

改⑤計画は、従来の戦艦や重巡洋艦の建造計画を大幅に見直し、航空母艦の建造を最優先事項としました。具体的には、戦艦と超甲巡洋艦の建造は完全に中止され、その資源と人員を航空母艦建造に集中させるという、大胆な方針転換が図られました。

さらに、軽巡洋艦の建造隻数を削減する一方、駆逐艦、潜水艦、掃海艇、海防艦、駆潜艇といった小型艦艇の建造数を大幅に増加させることを計画しました。これは、太平洋戦争における消耗戦を想定し、より機動性が高く、損失を補填しやすい小型艦艇の増強が不可欠と判断されたためです。

計画規模は、実に361隻、総トン数115万トンという、空前の規模を誇るものでした。しかし、この野心的な計画は、数々の困難に直面することになります。

計画の挫折：現実の制約と戦争の激化

改⑤計画は、昭和17年9月に策定されましたが、その実現は容易ではありませんでした。昭和17年6月末時点で、既存の軍備計画（④計画、マル臨計画、マル急計画、マル追計画など）に基づく未着手艦艇が410隻も残っていたのです。加えて、戦争の激化に伴い、損傷艦の修理需要が急増しました。

さらに、所要資材の不足、戦況変化に応じた小型艦艇の新規建造計画（マル戦計画）の追加など、様々な要因が計画の遅延、縮小に繋がりました。その結果、終戦までに建造が完了したのは22隻、建造途中の艦艇は12隻にとどまり、未着手あるいは建造中止となった艦艇は328隻にも上りました。

当初、昭和23年までの完了を目指した改⑤計画でしたが、計画の遅延、資材不足、戦況の悪化といった現実の制約、そして戦争の拡大によって、その野心的な目標は到底達成できないものとなりました。

結論：野心的な計画と厳しい現実

改⑤計画は、太平洋戦争下の日本海軍が抱えていた、野心的な目標と厳しい現実との間の大きな乖離を象徴する計画と言えます。航空母艦の増強という戦略的必要性と、現実的な資源・能力の限界との間で揺れ動き、その結果として、計画の大部分は未完成に終わりました。この計画の挫折は、日本海軍の敗北の要因の一つとして、重要な意味を持つと言えるでしょう。計画の遅延や失敗は、戦争遂行能力に深刻な影響を与え、日本の敗戦へと繋がる一因となったことは否めません。改⑤計画の経緯と結果を分析することで、太平洋戦争における日本の軍備政策、そして戦争遂行能力の限界について理解を深めることができます。

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