放射線生物学

放射線生物学は、放射線が生物に及ぼす様々な作用を研究する生物学の一分野です。この分野では、生体物質、細胞、組織、器官、個体、そして個体群や生物群集といったあらゆるレベルでの放射線の影響を調べます。

放射線生物学の歴史

1895年にX線が発見されてから、その利用は急速に進みました。しかし、19世紀末から20世紀にかけて、医療従事者を中心に皮膚障害などの放射線障害が多発しました。また、第一次世界大戦後には、蛍光塗料を扱う作業者やラジウム鉱山で働く人々がラジウム中毒を発症し、放射線が人体に大きな障害を引き起こすことが明らかになりました。

このような状況を受けて、20世紀初頭から放射線の生体に対する影響についての研究が始まりました。その中で、「細胞は分化の度が低いほど、また分裂が盛んなほど、放射線の感受性が高い」というベルゴニー・トリボンドーの法則（1906年）や、ハーマン・J・マラーによるX線照射によるショウジョウバエの突然変異誘発実験（1927年）など、多くの重要な知見が得られました。

1945年の広島と長崎への原爆投下によって原爆症が発生したことをきっかけに、放射線の生体に対する影響に関する研究は大きく進展しました。そして、1950年代後半から1960年代にかけて、放射線生物学は一つの学問分野として確立されました。

放射線の影響

放射線は特に遺伝子（DNA）に対して大きな影響を与えます。DNAに損傷を与え、染色体異常、突然変異、発がんなどを引き起こすことが知られています。そのため、放射線の遺伝現象への影響を専門とする放射線遺伝学という分野も存在します。

関連分野

放射線生物学は、様々な分野と関連しています。例えば、放射線医学（放射線診断学、放射線治療学、核医学）、放射線影響学、保健物理学、医学物理学、育種学、食品科学などが挙げられます。これらの分野では、放射線生物学の研究成果が活用されています。

研究の現状と今後

放射線生物学の研究は、放射線による人体への影響を理解する上で不可欠であり、医療分野における放射線治療法の開発や、放射線防護対策の策定に役立っています。また、放射線が環境に与える影響に関する研究も進められています。

放射線生物学は、今後も放射線の有効利用と安全管理の両面で、ますます重要な役割を果たすと考えられます。

外部リンク

若手放射線生物学研究会
京都大学放射線生物研究センター
* 日本放射線腫瘍学会ニュースレター No.86「放射線生物学，研究の現状と今後」

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