故事 (先例)

故事についての詳細

故事（こじ）は、中国の秦から三国時代にかけて形成された法的先例を指し、いわば法の根拠となる伝承や慣習法のことを指します。一般的には古くから伝わる物語や逸話を意味しますが、特に特定の地域や集団において慣習法化した事例も含まれます。歴史的には、官庁の内部や皇帝の家政機関などにおいて、具体的な法令が定められていない際に、長官の裁量に基づいて定められた規範もまた「故事」と呼ばれています。

長官が職務上の必要から新たな「故事」を制定し、官庁の運営に活用してきたのですが、通常、長官の交代があれば前任者が定めた「故事」は見直されるべきものでした。しかし、前任者が優れた人物であった場合や、引き続き有用であるとみなされた場合には、後任者がその「故事」を廃止せず新たなものとし、自らの「故事」として継承することもありました。こうして、歴代の長官を通じて受け継がれてきた「故事」は、官庁内において権威を獲得し、正規の法令と同様に扱われることになりました。

中央政府や皇帝も「故事」を重要視しており、例えば光武帝が後漢を成立させた際には、侯覇を任命し、散逸していた前漢の「故事」を再収集し有益な内容を法として施行しました。しかし、時が経つにつれ、個々の官庁で形成された「故事」はその内部で権威を持つようになり、時には皇帝の命令を阻害する場面も見受けられました。これを受けて、晋の成立後には、賈充が「故事」を再調査し、律令に反しない範囲での業務に関する規定のみを認め、「晋故事」として30巻に編纂しました。

法令が法典として整備されると、これまで律や令として扱われていた命令や故事も正式に編纂にされ、その法律的権威が確立されました。古代中国の歴史書においては、「故事」や「旧制」のタイトルが冒頭に掲げられ、それ以降に具体的な内容が記述されるスタイルがよく見られました。これは、故事を引用しやすくするための工夫であり、後世の研究者が文献中から故事を探しやすくする役割を担っていました。

故事の実例

丞相故事

歴代の丞相の積み重ねによって形作られた故事には「公府不案吏（公府吏を案ぜず）」という有名なものがあります。これは前漢の丞相、丙吉の寛大さを反映したもので、彼は不正を行った官吏に対して取り調べを強化せず、長期の休暇を与えて自己反省を促す方針を採用しました。この結果、後の丞相たちも同様の方針を踏襲し、結果として官吏の監査が疎かになることがありました。このようにして、一度形成された故事が時代を超えて影響を及ぼすこともあったのです。

尚書故事

尚書は皇帝への上奏を取り扱う役職で、皇帝に対する上奏を希望する者は、正副二つの上表書を提出する規定がありました。この仕組みは、当初は皇帝が多数の上奏を処理しきれなかったために採用されたと考えられています。しかし、後に尚書が自身の都合に合った上奏のみを選別するような弊害も生じました。このような背景の中、尚書の権限やその意味合いは時と共に変化していったのです。

郡故事

地方においても「郡故事」が存在し、それぞれの地域に適した規範が定められていました。太守は、在任中に自由に制定・改廃を行うことができ、その影響力は非常に大きかったのですが、必ずしも次の太守に引き継がれるわけではありませんでした。このため、各地域での「故事」は中央に対する自治の一部としての役割を果たしていたと言えます。特に、貧しい者が自己負担での諸費用を強いられたりするような不公平が問題視されることもありました。

結論

このように「故事」は、古代中国において法令や規範の一部としての重要性を持ち続け、多様な影響を与えてきました。それは単なる物語や逸話に留まらず、官庁運営や地方支配に欠かせない要素として多面的に作用していったのです。

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