教授 (チャップリンの映画)

映画『教授』：チャップリンが遺した謎の未発表作品

『教授』は、喜劇王チャールズ・チャップリンが1919年から1922年にかけて断続的に製作したサイレント映画です。しかし、完成には至らず、長らく人目に触れることはありませんでした。この作品の特筆すべき点は、チャップリンが従来の「チャーリー」とは異なる、「ボスコ氏」という新しいキャラクターを創造し、ノミのサーカスを披露しようとした点にあります。

あらすじ

物語は、ボスコ氏（チャップリン）というあだ名が「教授」の男が、とある安宿にやって来るところから始まります。彼は寝る前に、大切にしているノミが入った箱を開け、ノミの数が減っていないかを確認します。安心したボスコ氏は眠りにつきますが、寝ている間に誤って箱を蹴倒してしまいます。逃げ出したノミたちは安宿中を大混乱に陥れ、ボスコ氏は必死にノミを箱に戻そうと奮闘します。ようやくノミを箱に呼び戻すことに成功しますが、今度は野良犬が安宿に侵入し、箱を倒してしまうという新たな騒動が勃発。再びノミを捕獲したボスコ氏は、箱を抱えて安宿を後にするのでした。

製作の背景

現存するフィルムは、1919年9月末から10月初旬にかけて撮影されたものです。この時期は『一日の行楽』の製作が終わろうとする頃に当たります。チャップリン研究家の大野裕之氏によれば、『教授』は『222』というフィルムで使用された安宿のセットで製作されたとのことです。

『教授』には、ノミのサーカスをはじめ、ミュージックホールに由来する要素が散りばめられています。「ボスコ氏」という名前もその一つで、チャップリンの父が舞台で共演していた芸人の名前に由来します。

チャップリンは当初、『教授』を二巻ものの作品として1922年11月に公開する予定で製作を進めていました。しかし、ファースト・ナショナルとの間で配給を巡るトラブルが発生。チャップリンは8本目の作品として長編の『偽牧師』を提供し、契約を終えようとしましたが、ファースト・ナショナル側は難色を示しました。最終的にはファースト・ナショナルが『偽牧師』を配給することで合意に至りましたが、『教授』の扱いは未定のままとなりました。

その後、チャップリンは「『教授』は何があっても劇場にはかけないこと」と指示し、作品は幻となってしまいます。

発見と公開

それから約60年後、映画研究家のケヴィン・ブラウンロウとデイヴィッド・ギルがチャップリン家のアーカイブから『教授』と書かれたフィルム缶を発見し、安宿のシークエンスのフィルムの存在が明らかになりました。このフィルムは1983年にイギリスのテレビ番組『Unknown Chaplin』で初めて公開され、日の目を見ることとなったのです。また、『教授』で披露されるはずだったノミのサーカスは、後に『ライムライト』（1952年）でチャップリン自身が演じるカルヴェロによって披露されました。

未発表の理由

『教授』は「未完成作品」ではなく、「未発表作品」とされています。なぜ安宿のシークエンスのフィルムだけが現存しているのか、その理由は謎に包まれています。フィルムは、チャップリンのNGフィルムを収集していたレイモンド・ロウハウアーが所有していたと考えられており、現在は英国映画協会のチャップリン・アーカイヴに保管されています。

『教授』は、チャップリンの創造性の一端を示す貴重な作品であり、その謎めいた背景が、今なお多くの映画ファンを魅了し続けています。

現存部分のキャスト

「教授」ことボスコ氏 - チャールズ・チャップリン
安宿の宿泊客 - アルバート・オースチン
安宿の、太ったユダヤ人の宿泊客 - ヘンリー・バーグマン
安宿の主 - ロイヤル・アンダーウッド
* 安宿の宿泊客 - トム・ウィルソン、トム・ウッド

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