教育社歴史新書

教育社歴史新書

「教育社歴史新書」（読み：きょういくしゃ れきし しんしょ）は、かつて日本の出版社である教育社（現在の社名はキョーイクソフトに変更されています）が企画・発行していた、歴史を専門とする新書シリーズです。このシリーズは、歴史への関心を深めたい一般読者や、特定のテーマについて学びたい読者を主な対象としていました。

シリーズの刊行期間は、1977年（昭和52年）に始まり、1991年（平成3年）に終了するまでの、およそ15年間に及びました。特にシリーズの初期においては、毎月欠かさず新しい巻が刊行されるという、非常に意欲的なペースで展開されており、当時の歴史読書界に活気をもたらしました。

教育社歴史新書は、その対象とする歴史の地理的・文化的な範囲によって、三つの大きな柱に分けられていました。日本の歴史を扱う「日本史シリーズ」、中国を中心としながらもアジア各地の多様な歴史を視野に入れた「東洋史シリーズ」、そしてヨーロッパ史を中心に世界の歴史を解説する「西洋史シリーズ」です。これらのシリーズは、それぞれの分野を専門とする研究者や歴史家によって執筆されました。

本シリーズの最も重要な特徴は、収録されたすべての著作が、この新書シリーズのために特別に書き下ろされたオリジナル作品であった点です。これにより、各分野の研究者が、最新の研究成果や自身の視点に基づきながら、一般読者に対して分かりやすい言葉で歴史を語りかけることが可能となりました。学術的な厳密さを保ちつつも、専門知識がない読者にも歴史の面白さや深さを伝える工夫が凝らされていました。

各巻は、特定の歴史上の時代、重要な出来事、影響力の大きかった人物、あるいは文化や社会の様相といった、一つ一つの独立したテーマに焦点を当てていました。通史のように歴史の流れを最初から順に追うのではなく、それぞれのテーマを掘り下げて解説することで、読者がその分野の歴史を「大掴み」、すなわち全体像や本質を的確に把握できるよう設計されていました。

この「テーマ別・書き下ろし」という形式は、歴史を初めて学ぶ中高生から、社会人、あるいは歴史研究者まで、幅広い層の読者にとって有益でした。学校の歴史学習の副読本として、特定の時代や分野について知識を深めるための教養書として、また専門分野以外の歴史に関心を持つ読者にとっての入門書として機能しました。どの巻も独立した一冊として完結しているため、読者は自分の興味のあるテーマや時代から自由に読み始めることができ、シリーズ全体を順番に読む必要はありませんでした。このアクセスのしやすさが、多くの読者に支持される要因の一つとなりました。

教育社歴史新書シリーズが完結した後も、その収録作品の中には、学術的あるいは教養的な価値が長く認められ続けるものがありました。実際、その一部の巻は、後年に講談社学術文庫やちくま学芸文庫といった、学術的な著作や古典的な名著を再刊することで知られる文庫シリーズに収められました。これは、教育社歴史新書が単なる一時的な流行に終わらず、歴史に関する良質な入門書・教養書として確固たる地位を築いていたことの証と言えるでしょう。

総じて、教育社歴史新書は、質の高い書き下ろしによるテーマ別解説、そして入門書・教養書としての明確なコンセプトを通じて、日本の多くの読者に歴史の面白さを伝え、その後の歴史読書文化に少なからぬ影響を与えた、記憶すべきシリーズと言えます。

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