教育行政学

教育行政学とは

教育行政学（きょういくぎょうせいがく）は、教育と行政という二つの領域を対象とする学問分野です。しかし、この学問の存在そのものが、その定義の困難さや対象の広がりゆえに、常に論争の的となってきました。

一般的に、「教育～学」という名称の学問は「教育に関する～学」と定義されることが多いです。例えば、教育哲学であれば「教育に関する哲学」、教育史学であれば「教育に関する史学」といった具合です。しかし、教育行政学を単純に「教育に関する行政学」と定義することは適切ではないとされています。むしろ、「教育行政に関する学」と捉える方が実態に近いでしょう。

教育行政の広範な対象

「教育行政に関する学」として教育行政学が探究する領域は非常に広範です。教育行政の本質は、教育の営みが行われるための環境や体制を整える「条件整備」にあります。その対象は、国レベルの文部科学省や、地域に設置される教育委員会といった行政機関にとどまらず、幼稚園、小学校、中学校、高等学校、特別支援学校、大学、専門学校、各種学校といった多様な教育機関、さらには図書館や博物館、公民館などの社会教育施設に及びます。近年では、構造改革特別区域における株式会社やNPO法人による学校設置への参入もあり、その対象は拡大の一途をたどっています。

また、人権教育、法教育、消費者教育など、教育内容そのものが多様化・広がりを見せていることも、教育行政学が扱うべき範囲を無限に近いものにしています。主な研究対象としては、教育委員会の運営、教育委員会と学校等の関係性、教職員制度などが挙げられますが、教育財政や学校経営といった分野も研究対象に含められています。

学問としての課題

このように多岐にわたる対象を扱うため、教育行政学は独自の明確な研究方法論を確立することが難しいという課題を抱えています。その結果、「学」としての輪郭がややぼやけている側面があると言われています。

教育は、学習者個々の内面的な発達を促し、法的に保障された「教育を受ける権利」を保障する営みです。旧教育基本法第10条が示したように、「不当な支配に服することなく」行われ、「教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立」を目指すべきとされます。これは、教育行政が権力的な統制から距離を置き、政治的な影響を受けにくい非権力的な姿勢で臨むべきであることを示唆しています。

さらに教育は、投資に対する即座の成果が期待しにくいという特殊な性質を持っています。これは、学習者への働きかけ（入力）から目に見える結果（出力）が出るまでに予測困難な時間差が生じるためです。このような教育の特殊性を踏まえ、日本の教育行政機構では、教育委員会を行政委員会として設置し、首長や議会の直接的な影響を受けにくい構造とすることで、短期的な政治情勢によって教育が翻弄されることを避けるための配慮がなされてきました。

行政学との関係と近年の動向

教育の持つこれらの特殊性は、権力性をその本質とする行政学や、効率性や計画的生産性を重視する一般的な行政のあり方とは相容れない側面を生じさせます。したがって、教育行政という営みが、行政学の範疇にそのまま収まるかというと、そう断定することは難しい状況にあります。

近年、地方分権改革が進む中で、教育行政の独自性が改めて注目されています。例えば、義務教育費国庫負担金問題を巡る議論に見られるように、一部の首長や政治家からは、教育行政の独自性が一般行政の効率的運営を妨げているといった指摘や、独自性を否定し一般行政に統合しようとする意見が出されています。一方で、教育界では、教育の特殊性を踏まえた教育行政の独自性の意義が強く認識されています。

これらの対立は、首長が行政機能の一元化を目指す動きとも関連しており、今後の改革の行方が教育行政学のあり様を左右する可能性があります。改革の内容次第では、教育行政学が「教育に関する行政学」として、行政学の下位学問として位置づけられる可能性も指摘されています。

さらに、2014年の地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部改正により、2015年度からは首長が主宰する「総合教育会議」が設置されるようになりました。これにより、これまで以上に首長の政治的な意向が公教育に影響を及ぼす構造が生まれています。また、同法改正により、教育長と教育委員長が一本化され、新たな教育長制度が導入されました。

関係学会

教育行政学に関連する主な学会として、日本教育行政学会が存在し、活発な研究活動が行われています。

関連項目

教育学
行政学
* 教育委員会

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